ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 逃げきれ!ぶち殺せ!生き残れ!宗教団体・あいのうた教! ( No.2 )
- 日時: 2010/10/26 17:49
- 名前: 金平糖 ◆dv3C2P69LE (ID: jM89U6Tv)
だい一わ!
伊原は頭を抱えて呻いた。今、彼が居るのは日本海のどこかにある無人島で、彼自身は自分がどうしてこんな所にいるか分からなかった。彼の周りにはまだ眠っている人間が沢山転がっていた。
たっしかー……と伊原はここまできた経緯を思い出してみる。
学校が終わって、保育園の弟を迎えに行って、手を繋いで家に帰ってる所で、後ろから何か硬い物で叩かれてー……目が覚めたらここに。
「俺は誘拐をされたのか?」
伊原は目が覚めた時には既に手に握っていた、無人島のパンフレットを握り締める。
『海と空辺りが美しい無人島!見所結構満載!読んどいて損は無いと思う!』
なんて胡散臭い事が書かれたパンフレットは、表紙だけが凝ってて、中身は白紙のぺージしかなかった。
夜空って綺麗だなーと伊原は現実逃避をしてみるが、虚しくなったのですぐに止めた。
「ここはどこ!どこなの!」
「!?」
急に後ろから甲高い声が上がる。それを合図に、さっきまで眠っていた人間が目を覚まし、ここはどこだ!どうしてここに!なにこれ!と色々な人間の声が上がる。
そこで丁度良く、バンッバンッ!と頭上で幾つ物ライトが点けられた。
「まぶしっ!」
伊原は目を細くしながら、ライトの方を見る。
「こんばんは愚図共」
ヘリの上から、声だけで男と分かる人間が、耳を疑う様な言葉を言う。
ぽかんっと伊原は口を開けた。伊原の他の人間もそんな感じだった。ようやく目も慣れてきた伊原は男を見た。結構視力の良い伊原だったが、逆光で男のシルエットしか分からなかった。
「テメェ等にはこれから、生き残りをかけて頑張ってもらう」
生き残り?何言ってんの?ふざけんじゃないわよ!様々な声が上がるも、男は全て無視して、
「生き残れるのは、俺の元へたどり着けた者のみ!さぁ、わが教えに背く大罪を背負いし者達よ、信者達と戦え!あるいは逃げろ!そして私の元へとたどり着け!」
それだけ言って男はヘリに戻り、ヘリはぶーんっ!と、どこかへ飛んで行った。
「ふざけんじゃねぇ!俺は優治の晩御飯を作ってやらなきゃいけねーんだよぉ!!」
思わず伊原は叫んだ。回りも同じような事を叫んだ。ギャーギャーッと叫びは止まらない。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァアッ!!!!!」
しかしその大きな叫びを止める、もっと大きな叫びが起きた。
伊原はもっと大きな叫びがした方を見る。
「!?」
伊原は目を見開いて、その場に座り込む。視線の先には、豚のマスクを被った男と、倒れている男がいた。豚のマスクを被った男は、右手に血の付いたナイフを握っており、倒れている男は頭から沢山の血を出して倒れていた。
多分、あの血の量ではもう死んでいるだろう。
伊原は吐いた。
ギャーッギャーッと文句の叫びから、恐怖の叫びに辺りは変わる。
次は伊原のすぐ隣で、若い女性が、犬のマスクを被った女に殺された。少し遠くでは中年の男が山羊のマスクを被った女に殺された。
皆、叫び声を上げながらどこかへ走り出す。逃げている少年を狼のマスクを被った男が殺す。
若い女性を殺した、犬のマスクを被った女性が伊原に首を向ける。ガタガタと震えながら、伊原もどこかへ走り出した。
「ぅぎゃあああああああああああああうううわいういうあうあうあうう!!!」
なんてみっともない叫び声を上げながら、ただがむしゃらに伊原は走った。
伊原の頭に、男の言っていた事が蘇る。『信者達と戦え!あるいは逃げろ!』ふざけんな!ふざけんな!と思いながら、伊原は森の中へ入った。
- Re: 逃げきれ!ぶち殺せ!生き残れ!宗教団体・あいのうた教! ( No.3 )
- 日時: 2010/10/26 18:34
- 名前: 金平糖 ◆dv3C2P69LE (ID: jM89U6Tv)
「はぁ、はぁ……夢か!俺は夢を見てるのか!」
伊原は近くの木に頭をゴンッ!!ゴンッ!!とぶつける。当たり前のように痛い。伊原の額から血が流れる。
制服のポケットから携帯を取り出す、しかし圏外で繋がらない。
「どうすりゃ良いんだよ……」
俺の元までたどり着け?何言ってんだよ!マジで意味不明、どうやって行くんだよ!
伊原はその場に座り込み、頭をぶつけた木に寄りかかる。つい一日分の疲労から伊原はうとうととしてしまう。
が、すぐに伊原の眠気は吹っ飛ぶ。
なんと前方からライオンのマスクを被った男が、じりじりとこちらにやって来ているのだ。
すぐに伊原は立ち上がり、またがむしゃらに走り始めた。ライオンマスクの男は伊原を追い掛ける。
「追いかけてくんなし!」
目に涙を溜めながら、伊原はがむしゃらに走る。既に体力の限界は来ていて、どんどん伊原の走るスピードが遅くなる。
ライオンマスクとの距離がどんどん縮まる。
もう、駄目だ!と伊原が死の覚悟を決めた時、
「そいやぁっ!!」
甲高い少女の声がし、あとから何かがドサリッと崩れ落ちる音がした。
伊原が振り返ると、すぐ後ろのライオンマスクが倒れており、ライオンマスクの頭を、自分と同じ年位の少女がぐりぐりと踏み付けていた。
「すごいでしょ」
少女が伊原を見つめ、にっこりと笑う。
灰色のワンピースに、薄桃色のガーディガンを羽織り、白い帽子を被った少女はニコニコと笑いながら伊原に近づく。
「え?え?」
「助けてやったんだから、お礼!」
「え、あ、ありがとうございます!」
条件反射で、思わず伊原は声を出す。少女は満足そうに頷いた後、ライオンマスクの首の骨を圧し折り、とどめをさした。
「君、名前なんて言うの?」
「え、い、伊原だけど……」
「イハラ?ふーん……あ、私は堺真美子!マミって呼んで!」
マミは伊原の顔をじろじろと見る。
「マミ?あ、へい……え?」
「イハラの顔ってマミの大好きな三沢光晴とモハメド・アリと浅間強志を足した感じでタイプ!だから守ってあげる!」
「三沢、アリ、浅間……!?」
どれもプロレスラーである。
突拍子も無くマミは伊原に抱き付く。伊原は顔を真っ赤にして口を金魚のようにパクパクと動かす。
「見ただけで分かるよ、イハラが弱いの。だから大人しく守られて!イハラはマミの理想的な顔なんだから!」
気持ちは嬉しいし、マミが強そうなのはすでに分かっていたのだが、女子に守ってもらうのは何だか気がひけた伊原は、いや、そんなこと言われても……と小さな声で呟く。
「ね!!」
マミが抱き締める力をギリギリと強くする。
「痛い!痛い!痛い!痛いです、痛いです、よ、宜しくお願いします!」
「やったー!」
まぁいいか。守ってくれるなんて好都合じゃないか……。伊原は楽観的に考える事にし、マミの好意に甘んじる事にした。