ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Return Days ( No.1 )
日時: 2010/11/13 18:16
名前: 遮犬 (ID: pD1ETejM)

精一杯生きて、生きて、生きて。

俺たちは、何がしたいのか。何のために、ここにいるのか。

居場所を求めて探して歩かなければならないほど、何故そんなに苦しいのか。

青空が、とても悲しくて、遠い存在のように見えた。





俺は、とある常識から外された少年少女のいる学校へと入学することになった。
心情や様々な面で問題のある少年少女たちのいる場所へと。
俺もまた、心に深い傷を負っている内の一人だった。いや、もういっそ死んだほうが楽かもしれない。

今でも鮮明に浮かぶ、妹の姿。入学する山奥の学校の黒色の校門の前で思い返す。

——また寝坊?もう…仕方ないなぁ〜、お兄ちゃんは

蘇る、あの可愛らしい声。

——ほらほら!遅刻するよっ!

自分の手を引っ張る、小さな手。

——早く行こう!お兄ちゃん!

元気良く、自分を呼ぶ妹。

——お兄ちゃん!


今はもう、意識のない妹。植物状態に陥った、自分のたった一人の肉親。


"あの事件"から、ずっと真っ白な病室の中で意識を戻さない。

(全部…自分のせいなんだ…!! 俺が…俺が…!

      妹を…由梨ゆりを殺したんだ…!)


生きてちゃ、ダメなんだ。

俺は、生きてはいけない。何度も死のうと思った。
単に怖かった。由梨はもう、二度と自分に微笑んでくれないのかと。

あの、可愛い声で自分の手を握り、いつまでも笑顔だった由梨が、なんだか

いなくなるようで。目の前に寝ている由梨が、今にも消えてしまいそうで。


怖かったんだ。


妹の全てを奪い去った俺は、問題のある学生ということでこの学校へと来ることになった。

どうせ、生きていても何もならない。死んだほうがマシだ。由梨は、もう…

諦めてる心がそこには確かにあった。もう、身も心もボロボロだったのかもしれない。


俺は——生まれてこなかったらよかったのだ。

少年は、立派な白い校舎、宿舎を見上げてそう思った。何をしているのだろう、自分は。

そう、思っていた時だった。


「貴方は今、幸せですか?」


「…え?」


そんな少年に、話かけた少女がいた。
少し長い黒髪を春風によってなびかせて、少年の後ろに立つ見知らぬ少女。


「私は…これからです。守れなかった自分の居場所を、今度こそここで見つけるんです。

     もう一度、やり直すんです。だから、見ていてください。私は…」

彼女の言葉は、どこか少年にとって思うところがあった。
前を向いていた足が自然と彼女の方へと向き直る。そして、彼女はいったのだ。


「——負けません。次こそは、絶対に。何度でも、何度でも、生きたいって叫ぶんです。

    私は、ここにいるから」


少年は、この不思議な少女と出会った。
死にたい、心底からそう思っていた少年にとって、彼女の言葉はあまりにも真反対で、そして

強かった。彼女は見た目のか弱そうなイメージとは裏腹に、心が強かった。

そんな彼女に自分が言えた言葉。


「やり直せるのか? 本当に…あの、楽しかった日々に」

由梨の笑顔が浮かんでくる。そのたびに胸が苦しく締め付けられる。
少年と少女は、全くの赤の他人。今会ったばかりだというのに。

自分は初対面でいきなり何をいっているのだろう。そう思って少年は、俯こうとした時。


「はいっ!」


と、元気のいい笑顔と返事が、少女から返ってきた。
それは、予想外の出来事だった。思わず彼女の顔を凝視してしまう。

「いきましょうっ!」

見ず知らずの自分の手を引き、少女はどこかぎこちない足取りで走る、ではなく、歩きだした。

「あ…ちょっ…」

抵抗する暇もなく、少年は見ず知らずの少女についていかされる。
その握られた手は、暖かった。


二人は、ゆっくりと黒い校門をくぐって行く。
その先、何が待ち受けるのか。

少年少女は居場所を、探し続ける。ゆっくりと、一歩ずつ、確実に。