ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Return Days ( No.11 )
日時: 2010/11/17 18:38
名前: 遮犬 (ID: pD1ETejM)

憐はそのまま晴樹の後をついてきた。
仕方なく晴樹は無視しつつ、同行を口では言わずに許可する。

「すっごいねー! ひっろいねー!」

憐が寮の広さか何かの凄さに言葉を費やしているが全く気にする素振りも見せずに寮の出口を目指す。
向かう先は、転入生用のクラスである。

この学校は転入生専用クラスというものがあり、
高等学校を中退して、こちらに転入してきた者だけが集められたクラスがそれだった。
晴樹は高校二年。つまり高校を中退してこちらにきたのだ。
やる気がなかった、授業態度が悪かったという表向きな理由があるが
実質のとこ、あんなところにいたくなかった。
何不自由なく、暮らしている普通の学生が、何の罪もないというのに恨んでしまう。
その結果ケンカをしたりして何度も停学をくらったりもした。
だが、父親は自分のせいで由梨があんなことになったと落ち込み、俺に前のように叱らなくなった。
まるで、生きているのかどうかも分からないほどに肌には血の気がなくなっており、酒に飲んだくれる毎日

そんな親の場所から逃げたいというのも、また一つの目的といえた。

もう嫌だった。何もかも。
普通が、自分にとって普通の生活というのはまさに恐怖そのもののように感じたのである。

寮を出てもずっと笑顔のまま憐は晴樹の後についてくる。
それを見かねた晴樹はようやく自分から憐へと話しかけた。

「……お前さ? 何学年?」

晴樹的にはいけて高校1年生ぐらいだろうと思っていた。

「僕? 高校二年生だよ〜」

話しかけてくれたのがよほど嬉しかったのか、眩しいほどの笑顔で晴樹の問いに答えた。

(こ……こいつ、俺と同学年かよ……)

「ん? 何? 僕の顔に何かついてる?」

「い、いや……」

憐は無邪気に自分の顔を手で拭っている。
そんな憐には聞こえない程度のため息を吐き、そしてまた転入生クラスに向かおうとした時、

「ん……?」

ある人影に気付く。
それは見覚えがあるものだった。

「上谷か……?」

それは今日の朝にここで初めて会ったあの少女であった。
少し長いセミロングの黒髪を小さくなびかせながらも真剣な顔で歩いている。

「あ、わっ……!」

下にある段差に気付かずに、そこへと足がぶつかって転びそうになる。

ガシッ。
転ぶ刹那、晴樹がそのか細い腕をしっかりと握っていた。

「大丈夫かよ?」

自分でもなんでこんな行動に出たのかまるでわからない。
だけど、どこか心の中で安心した。
何故だか、由梨のことがフラッシュバックしたような気がしたのだ。

「あ、えっと……はい」

呆然としつつも、返事は笑顔で返された。
晴樹は上谷がしっかりと立つことを確認すると、腕を下ろした。
上谷は手で制服などを払い、再び笑顔となって晴樹に向き合ってきた。

「あの、ありがとうございます。東雲君」

「あ、あぁ……」

まだ自分のやった行動にいまいちわからない晴樹は淡々とした返事を返す。
そんな晴樹と上谷に憐は相変わらずの笑顔で近寄ってくる。

「あれ? お二人共お知り合い?」

笑顔のままで言ってくるのでなかなか憎めない。
そんな憐に笑顔を向け、上谷はお辞儀する。

「初めまして。私、上谷 櫻っていいます。高校2年生です」

「えっ!?」

晴樹が上谷の言葉に鋭く反応した。
その様子に上谷は首を傾げながら

「どうしたんですか? 東雲君。何か……おかしなところでもありました?」

「いや……おかしいというか、お前ら……俺と同学年?」

「「そうですけど(だよ)?」」

二人して声を合わせて晴樹に言ってくる。

「マジか……」

晴樹は何だか最近の高校二年は童顔が多いなぁとも思った。
そういえば寮長の人が俺のこと童顔とか言っていたが…このさい気にしないでおこう。

「上谷。お前一人か?」

「え? あ、はい。そうですけど……今から転入生のクラスに向かわないと……」

おどおどした様子で晴樹の様子を伺ってくる上谷。
何故だか安心感みたいなものを感じつつ、上谷に向かって晴樹は言った。

「じゃあ一緒にいかないか? どうせそこまでだしな」

晴樹の言葉に上谷は呆然とした顔になる。

「え……いいんですか?」

「あぁ。変なのついてきてるしな」

晴樹は後ろを指でさす。そこにいたのはもちろん憐だった。

「変なのって、失礼だなぁ。一応同居人なのにさー」

憐は怒ったように頬を膨らむすがそれがまた男か女か区別がつかない。どちらかというと女の方だろう。

(いずれ性別聞こう……今はいいか)

同居人ということなので嫌でも顔を見ることになりそうだし、と心の中で思う。
それにしてもまた自分は上谷をなんで誘ったのだろうか。
今思えばこの決断は結構恥ずかしいことなんじゃないのか?

初対面で、一緒に行こうと誘うだなんんて。

「うぁ……!」

「東雲君? どうかしましたか?」

「い、いや……なんでもない。とにかく、行くか」

誰とも関わらない。そう決めていた。
これぐらいならいいだろう。許してくれるだろうと、晴樹は青空を仰いだ。
清々しい風が三人を包む。



——今思えば、これは始まりだったんだろう。


俺たちの、居場所を見つける長い旅は

まさに、これからだったんだ。