ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Return Days ( No.6 )
- 日時: 2010/11/13 18:17
- 名前: 遮犬 (ID: pD1ETejM)
山奥にある学校といっても元は普通の高等学校だった。
ちょっと外れれば都市へと繋がるが、ここはその都市から離れた場所にある。
冬になると雪がよく積もり、この山でスキーをするためにくる人も少なくはない。
過疎化し、廃校となっていたこの学校を社会から見捨てられた少年少女のための学校へと生まれ変わった。
何故、俺がこの学校に入ることになったのか。
妹のこともあるが、それ以上に俺は親との対立が激しかった。
母親が事故で亡くなってからというもの、あの穏やかな性格の父親は変わった。
酔っ払うと暴力が当たり前になる父親。それも、暴力を振るうのは力の弱い、妹。
俺が止めようとすると、呆気なく静まる。怒鳴ることもなくなる。
だが、妹はずっと耐えていた。父親は、こんな人ではない。きっと分かってくれる。
だから俺に父親を恨まないで、と何度も言うのだ。
そんな父親を俺は心から憎んだ。だが、妹の言葉もあり、俺はずっと我慢した。
高校へと俺は進学し、妹は中学3年生になった頃だった。
父親の暴力は、エスカレートしたのだ。
そのことに俺は、耐え切れなかった。ついに妹の約束を破いてしまった。
父親を殴り、いつまでも殴り続けた。大切な妹を、守りたかったのかもしれない。
でも、それがいけなかった。それを見た妹はショックのあまり、声を失い、笑顔を失った。
それから父親は俺の前だと怯え、何度も謝り、俺を避けた。
耐え切れなかったんだろう。俺はそんな生活に。
学校で不良に絡まれるとこっちから殴ってやった。そんな、最悪な日々。
母親が死ぬ前までは、とても楽しかった。毎日が、すごく幸せで、妹も笑っていた。父親も、母親も。俺も
そんな日々は一瞬で壊れた。
妹の病状を良くしようとして、外に出かけたのが間違いだった。あの日、俺のせいで。
交差点に差し掛かったとき、まだ赤で待っていると、小さな女の子が赤というのに交差点を渡ろうとした。
その時に車が走ってきた。見過ごせず、俺はその女の子を助けようと無我夢中で交差点を渡った。
だが、その時、俺の方の車道にも車がきていた。
「ッ!!」
もう少しで、ぶつかると思った時
「あぶないっ!!」
妹の声が聞こえ、後ろから何かが自分の背中を思い切り押した。
その勢いで自分は交差点のど真ん中に転がり落ちる。
「きゃあああああ!!」
後ろから女性の叫び声。ざわめく人たち。そして、自分を轢こうとしていた車の前はへこんでおり、
その目の前には、血だらけの妹、由梨の姿があった。
俺が助けようとした女の子は、無事助かっていた。ギリギリブレーキを踏み、なんとか助かっていた。
だが、その代わりに自分の妹が犠牲になった。それ以降、だ。由梨が意識不明の植物状態になったのは。
医師からも、回復する見込みはほとんどないといわれたのだ。
——それから、俺は心に深い傷を負い、あの父親から離れ、この学校で寮生活を送ることになった。
今、自分は高校2年生になる。由梨は、1年生だ。一番楽しい時だろう。なのに——
その未来を自分が奪ってしまった。
「——どうしたんですか?」
「ッ!?」
目の前には先ほど校門で出会った少女が顔を覗き込んでいた。近づいてみるとなかなか可愛かった。
綺麗なショートの黒髪を靡かせ、横髪を耳にかける動作がなんとも可愛らしい。
そしてどこか、由梨に似ているような気がした。
「…そういえば、自己紹介まだしてなかったな?」
なんとか話を逸らす。白い校舎に囲まれたようにある中庭の中、少年少女二人のみがいる。
人気がない。それもそのはずだった。今は朝の5:00頃。
寮に荷物を置いて自分の住むところを確認するためにこれだけ早く来たのだった。
少女が同じ時間帯に来るとは思わなかったのだ。多分同じ環境なのだろうが。
「あ、はい! えっと…私は上谷 櫻(かみや さくら)と申します! 宜しくお願いします!」
何故だかは分からないが、櫻は顔を赤らめながら目線をあわそうとせず、頭をペコペコと下げまくる。
「俺は東雲 晴樹(しののめ はるき)だ」
よろしく、とはいえなかった。生憎だがそういう気分でもなかった。いや、そんな気分でいてはならない。
そんな感じがした。ずっと、自分の背中に何か重いものを乗せられているような。
晴樹の言葉に櫻は何も思わず、「東雲 晴樹…」と、何度も繰り返し呟いていた。
不思議な子だとは思ったが、ここは何かと問題のある者の集まる場所。
こういう子もいてもおかしくはないとは思った。
「あの…」
櫻はいきなり晴樹に話しかけた。晴樹は少々戸惑いながらも「何?」と返した。
あまりこういう"馴れ合い"はしたくないのだが、と心の中で思いつつも、
この次の櫻の言葉には動揺を隠し切れなかった。
「あの…最初のお友達になってくれませんか?」
「最初の…友達?」
櫻の言った言葉を頭で理解しようとしながらもう一度繰り返す。
まさかこんな言葉が出るなんて思わなかった。
「ダメなら…いいんです…えと…」
悲しそうな顔をして俯き、ボソボソと呟いている。
「…なんで俺なんか? それに今さっき会ったばかりなのに」
もっともな意見だとは思った。つい数分前に会ったばかりなのである。赤の他人同然のようなものだった。
そんな人に友達になってくださいという根拠がただ単純に知りたかった。
「理由は…ありません」
「へ?」
予想外の答えにまたもや驚く。この子は天然なのだろうか?
「いえ…だって、一番最初話した時に言った言葉…。やり直せるのか? って」
どうやら校門前で自分が返した言葉のことを言っているらしかった。
「…それがどうかしたのか?」
分からないといった表情をしているのだろう、自分は。だが彼女は、上谷はそんなこと何も気にせず
「貴方も私と一緒で、居場所を望んでいると思ったからです」
と、笑顔で言った。その言葉の意味はわからなかった。その時は。
「それって…」
晴樹が聞こうとした時
「あ! そういえば色々用意があるんでした…。また会いましょうね? 東雲君」
上谷は笑顔でそう告げると、晴樹に有無も言わせずにその場をぎこちない足取りで走り去った。
「…俺も寮に行くか…」
重たい荷物を抱えて、ゆっくりと寮に向かって歩き出した。