ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Return Days ( No.7 )
- 日時: 2010/11/03 00:54
- 名前: 遮犬 (ID: cLZL9WsW)
(なんだったんだ、一体)
晴樹は先ほどの少女のことを思い返していた。
今まで生きてきた中であれだけ人懐っこいのは初めてのタイプだった。
(…そういえばあいつ、何だか由梨に——)
思い悩んでいた矢先、目的の寮へと辿り着く。重い荷物を左から右へと持ち替え、寮を見上げた。
「結構大きいな…」
その寮は下手をすれば校舎並みはあるだろうというほどの大きさ。
どちらにしろ体育館より大きいと思う。ここの体育館は決して小さくはないのだが。
体育館をも中に収められるようなほどの大きさだった。
晴樹はゆっくりと重たい荷物を再び左に戻しながら寮の中へと入っていった。
「暗いな…」
まだ生徒は皆寝ているのだろう。無理はない、何せ今時刻は5:30。
あの少女と出会ってからもう30分も経っていることにも驚いた。
あの少女との出会いは何故か早く過ぎ去ったような気がした。
妙な感覚を覚えながらも自分の指定の部屋へと向かっていった。
古い階段を上がり、しばし歩くこと数分。
「えっと……605号室……ここか」
指定された部屋がすぐに見つかった。あれだけの広さのため、結構廊下も長いのだろうと思っていたが
予想は見事に外れた。どうやら区切りが多いようで一つの階ごとに向かい合わせをあわせて10部屋だった。
(よかった。あまり人と絡むことも無さそうだな)
そう思いつつも鍵を取り出し、ドアノブについている鍵穴へと差し込んだ。
「あれ? 新入生?」
「ッ!?」
思わず大きく声をあげてしまうところだった。声のする方へと振り返るとそこにはお玉を持った、女性。
髪はポニーテールで纏めてあり、自分より何歳も年上だろう。それに外見はとても美人だった。
「ここ、二年生の寮よ? 一年生は確か〜…」
どうやらこの女性は晴樹のことを一年生だと思っているらしい。
「…俺は二年生です」
随分と無愛想な返しをしてしまった。初対面だというのに不機嫌そうな態度。
だけど、これでいい。自分は人の仲良くなんてなってはならない。
そう思って、怒鳴られるのを覚悟で鍵を回そうとした。
「へぇ、貴方結構童顔ね? ごめんごめん、気付かなかったわ」
栗色の髪を掻き分け、その女性は晴樹の元へと歩み寄ってくる。
自分の無愛想な態度に何も怒ることはなく、自然に返した。
多分慣れているのだろう。自分みたいな無愛想な生徒ぐらい一人や二人はいるみたいだ。
だけど、俺の罪は消えない。慣れ合いは困る。
そう思い、何も返事をせずにカギを開け、ドアを開いた。
「あら? もういっちゃうの? なら、名前だけ聞いておこうかな。私は藤瀬 菜摘(ふじせ なつみ)」
いいながら自分に近づいてきて、ほんのすぐ隣まで来た時、呟くように言った。
「貴方は?」
早くその場を離れたかった晴樹はもう話しかけられないようにより無愛想な感じで
「…東雲 晴樹」
と、言って部屋に入り、ドアを閉めた。
その動作を少々驚き顔で見つめた後、小さく微笑み、菜摘はお玉を持ちながら腕を組み
「…また居場所を無くした子が来たわけね…。東雲 晴樹、か…。面白くなってきそうね」
呟いて、振り返り、歩き出す。
よく見ると彼女の腕には腕章がついており、その腕章に書いてある文字は
"高校二年生寮、寮長"と、書かれていた。
「はぁ…なんだっていうんだ」
晴樹はドアにカギを閉め、荷物を置き、とりあえず今日からお世話になる部屋を眺めた。
それなりに部屋は広く、また汚らしくもなかった。どうやら掃除やらなんやら丁寧にしているようだった。
「もっと汚そうなところだとは思っていたけど…案外広いし、綺麗なんだな」
どうせなら刑務所のような場所でもよかったのに、と心の中で思いながら置いてあるベットに腰をかけた。
それといって家具はなく、勉強机と思わしき机にテーブル、人一人で寝るには十分なベットのみ。
個室で押入れなんかもあり、立ち上がって開くと数枚の布団があった。
中には季節はずれの毛布なんかもある。
トイレはついてあるが風呂はついていない。どうやら大浴場みたいなものがあるようだ。
新入生のためなのか壁に色々と説明事項が書かれている中に風呂のことも書いてあった。
「……ふぅ」
溜め込んだ息を吐き、ベットへ寝転がる。
そして最初にあったあの少女のことが浮かび上がる。
「あいつもここで生活するんだろうか…?」
そういえばあの少女の名前は聞いても学年は聞いていなかった。
同級生か、はたまた下級生か。上級生といった感じは全くなかったので前者の二択どちらかだろう。
ふと時計を見ると時刻はもうすぐ6:00を指そうとしていた。
「まだこんな時間か…」
と、思いつつ起き上がり、おもむろにバックの中を漁った。
中から取り出したのは、楽しく全員が笑っている家族の写真。
もう二度と撮れない、家族の写真だった。二度と、戻れないあの楽しい日々のほんの一欠けら。
(由梨…)
何より妹の由梨のことが気になる。親父はもうどうなってもいいと思った。
母という存在がいなくなって豹変したクソ親父のことなど思い出したくも無かった。
(これ以上考えるのはよそう)
取り出した写真をバッグにもう一度仕舞い込む。
「……ちょっと疲れてるのかもな……」
ゆっくりと頭に手をやる。
段々と視界がボヤけていき、いつしか眠りに誘われてしまっていた。
——誰も、いない。
少女は寂しさを嫌というほど感じ取る。
ここには、誰もいない。それはこの時間帯だからというわけではない。
——私を知っている人も、みんな、みんな。
強く手を握り締める。でも自分は決めたのだ。
普通の学校に行こうと思えば行けた。自分は対して何もなかったのだから。
しかし、違った。自分は既に"卒業していなければならない"。
ぎこちない足取りで歩き出す。目の前が段差ということも気付かず。
「きゃっ!」
段差に見事に躓き、転んでしまった。
立ち上がろうとし、右足に力を込める。なかなか立ち上がれない。
だったら左足にも力を入れればいい。だが彼女にはそれが"したくても出来なかった"。
完全に、左足は麻痺しているのだった。
すぐ傍に手すりがあることに気付き、なんとかそれで立ち上がる。
彼女は、普通の人間ではない。
障害者という名のレッテルが貼られていた少女だったのだ。