ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 皇国分列行進曲 ( No.3 )
- 日時: 2010/11/03 11:56
- 名前: Agu (ID: gzQIXahG)
アンティーク調の机、それに置かれている書類を睨み付ける男が一人。
カーキ色の軍帽と制服をしっかりと着こなしたその男は、自分の整えられた口髭を不安そうに撫でていた。
どうやら彼の眼前にあるこの書類、これが悩みの種のようである。
ふと、誰かがこの執務室の扉を叩く音がする。男は仕方がなく、この目下の懸案事項から目を離すことに決めた。
「皇国陸軍中佐、山岸徹であります。入室の許可を願います、大将殿」
どうやら先程まで書類と睨めっこしていたこの男は軍人で、しかも将官の様である。
男はその場で返答した。
「宜しい、中佐。入室を許可する」
扉が静かに開けられ、やはりカーキ色の軍服を着た男が入ってきた。
その厳格な顔付きと真一文字に閉じられた唇はその内面を伺わせる——
山岸徹陸軍中佐はその場で敬礼すると、両眼で目の前の“大将”を見据えた。
「先程、国境の第6師団本部から電報が届きました。またヴィエトラ国軍の部隊が我が国の領土を侵犯したそうです」
その報告を聞いた“大将”、正しくは皇国陸軍総司令官、有賀忠道大将は、深くただ深く、そして気取られぬ様に溜息を吐いた。
これで何回目だ——そんな言葉が彼の脳裏をよぎる。
有賀は顔をあげると、山岸をジッと見つめた。
「山岸中佐、こちらの被害は?……もちろん追い払ったのだろう?」
山岸の顔が少し歪む、彼はそれでも淡々と事実を述べた。
「今回、奴らは激しく抵抗したため、死傷者が16名ほど出ましたが、追い払うことには成功しました」
有賀は自分の心が滾るのを感じた——ここまでやって連中はまだ、敵対行動ではないと抜かすのか。
「……そうか、兵力はどうだ?確か前回は一個小隊ほどであったが……」
山岸は脇に抱えていた報告書をパラパラと捲り、言う。
「報告では約200人程……こちらの編成では一個中隊に相当します」
それを聞いた有賀は思わず舌を噛んだ。
前回は3〜40人だったのが200人になったのだ。これは明らかな侵略意図が見え隠れしている。
「………中佐、ここからは私の個人参謀としての君と話がしたいのだ。いいかね?」
山岸は黙って頷くと、肯定の意を示した。
有賀大将は率直な意見が聞きたいのだ、そう彼は理解する。
有賀の口が開かれた。
「ヴィエトラ国の敵対意図はもはや明らか。私はそう見ているが、君はどう思う?」
山岸ははっきりした声でそれに同意する。
「間違いありません。少官もそう考えます——必ずや、近い内に両国の間に埋めることの出来ない亀裂が走るでしょう」
有賀は悟った。山岸は暗にこう告げているのだ。
近い内に宣戦布告が宣言されるだろう、と。
「……ふむ、そうだな。私も同意見だ——報告ご苦労」
「はっ」
山岸が敬礼し退室すると、すぐに有賀は目の前にある書類を開いた。
そこに明記されている文章を彼は端から端まで嘗め回すように読むと、一番下に設けられていた項に自分の名前を記入する。
書類の題名は———「東方電撃戦、ヴィエトラ連邦に対する大規模攻勢」