ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 皇国分列行進曲 ( No.9 )
日時: 2010/11/12 01:51
名前: agu (ID: gzQIXahG)

皇国の東に位置しているヴィエトラ連邦。

広大な国土と強力な軍事力を有するこの国は、皇国に国境を面する周辺国の中でも、最大の脅威といえた。
過去の歴史からもあまり関係は良くなく、最近では両国の関係はすっかりと冷え切っている。

そして国境線を越えての領土侵犯、という事件が起こった今となっては、お互いに、まるで戦争中かの様な緊張感が漂っていた。






ここ、国境の警備を担当する第6師団の本部ではその事件の余波を直接受けていた。
それは当然の流れだ、この師団が件の事件での防衛を担当したのだから。

宣戦布告もしていない国の攻撃により死傷者を出した、という事実は彼らに少なからずの衝撃を与えている。


その渦中にある師団本部では4名の参謀が激論を戦わせていた———



「何という事だ!!前回もその前々回も!連中は平然と我が皇国の領地に足を踏み入れている!もう俺は堪忍袋の緒が切れたぞ!!国境沿いにいるヴィエトラの連中に砲撃を食らわせてやる!」


「……落ち着け、薬丸。それでは奴らの思う壺だぞ……」


「恐らく連中は薬丸参謀の様な行動を期待しておるのですよ。そうすれば国際社会にも「宣戦布告を受けた防衛戦争」という印象を与えられますからな。23点」


「ええと……うん、薬丸中佐。君の言いたいことも分かるよ?ただ……それやっちゃうとマズイよねーって僕は思ってたりね……あ。で、でも許せないという気持ちは分かるよ」


地図を貼り付けた長テーブル、その卓上を飛び交う言葉。

順に薬丸鐘教中佐、神忠重中佐、高城壮吉少佐、三好柳作大佐である。
彼らはこの第6師団の参謀、つまりは頭脳であり、この4人によって国境が守られているといっても過言ではない。


そして、この参謀達の現在の課題はというと、それは何回迎撃しても侵入を繰り返す、ヴィエトラ軍に対する対処だ。

今回に限らず、ヴィエトラは国境を越えて数十人単位の部隊を前々から送り込んできていた。
当初、この何回も続く侵入は皇国内における破壊工作の為の尖兵だろうと見ていた参謀達だったが、今回の事件でその考えは180度変わった、いや変わらざるをえなかった。

約200人にも及ぶ部隊が、国境沿いの国道から侵入した……
数十人ならともかく、数百人単位となれば、それは明らかな侵略意図があると見て当然だろう。


そして彼らは、この迫り来る脅威に対し対策を論議しているのだ。





テーブルに身を乗り出さんばかりに薬丸が怒鳴る。


「その様な弱腰ではッ!師団、しいては皇国と陛下の威信にも関わる問題だぞ!奴らが宣戦布告も無しに、わが国の領土に侵入を続けているのは、事実!ならば我々が反撃を食らわした所で文句を言う奴はおるまい!」


それを聞いた高城が静かな声で諫めた。


「薬丸参謀、これはそういう道理で片付けられる問題ではありません。ヴィエトラは汚い国、いや、したたかな国です。彼らの覇権主義とその横暴さは誰しもが承知しているはず……例え非があったとしても、我々に平気で罪を擦り付けましょうな。周辺国や他の大国ももはやそれは分かりきっているはず。だからこそこちらから反撃してはなりません。奴らに更に付け込まれる様な作戦行動は慎むべきなのです。3点」


理論然と放たれた言葉に薬丸の顔が歪む。それをフォローする様に三好が続けた。


「あーうん、君の気持ちも良く分かっているつもりだよ?なんたって“正式な手続き”を踏まないまま、こっちに“攻撃”を仕掛けてきた訳だからね……だから感情的には皆、一緒さ。うん、多分……」


「……三好参謀長……………………」


皆に注目されるにつれ、段々と萎んでいった三好の言葉尻を捉えるように神が冷静な声を放つ。
彼は続ける。


「……下士官達や兵卒達、一般将校にも動揺と怒りが広がっているのは確か………しかしここで我々が単身動き、皇国と陛下に御迷惑をお掛けする訳にもいかず………ならばこそ、今は雌伏の時……皇国、陛下と陸軍の為にもこの苦難を耐え抜き………一矢報いる時は必ず来る………!」


普段から寡黙な神の珍しく感情が篭ったその言葉に、場にいる三人の参謀が揃えて口を閉じた———