ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 天地神明 ( No.1 )
- 日時: 2010/11/20 18:55
- 名前: むーみん ◆LhGj6bqtQA (ID: 20F5x0q3)
序章
いつもの通学路。
だが、そこは明らかに普段と違っていた。
朝なのに人の気配を全く感じない。学校に行く生徒も散歩している人もいなく、たった一人同じクラスの男子生徒が俺の前にいるだけ。
何故か声も出ない。自由に身動きもできない。俺は気がつけばただただ、男子生徒の後をついて行っていた。
見慣れたはずの道なのに、どこかぼやけていてはっきりしない風景。風もなければ、太陽も月も無い。
明らかに異常な光景だが、不思議と恐怖は感じていなかった。
ただ——
次の瞬間。何もない静かな空間に、トラックのエンジン音が聞こえたかとおもうと、次の瞬間、その前にいる男子生徒にそのトラックが衝突した。
「うわっ!」
その時、俺は目覚めた。
すこぶる目覚めが悪く、じっとりとした変な汗をかいていて、全く疲れが取れていない。
それは、現実との境が分からないほどにリアルな夢だった。
この何とも言えない感覚と、リアルな夢は今回が初めてではない。
——そして今まで何度か見たその夢の全てが、現実に起こってきた。
また、悪い予感が頭の中をよぎる。
*
聞きなれたチャイムが鳴った。
つまらない授業がようやく終わり、教室はガヤガヤと騒がしくなってきていた。
俺はさっと席を立って昨日の夢に出た男子生徒のもとへ向かう。
「ねぇ。明日、君は家から出ないほうがいいと思うよ。事故に遭うと思うから」
「……は? なにお前、気持ち悪ぃな」
夢に出たクラスの男子に忠告すると、彼は馬鹿にしたような顔でそう言った。
すると周りにいた奴らも不思議そうに、そして面白そうに俺を見ながら口々に罵声を発する。
「お前、なに言ってんの?」
「馬鹿じゃない?」
「それ何、予言のつもり?」
馬鹿にしたような笑い声と言葉が俺の鼓膜に響く。
なんとでも言え。明日また現実に起きればお前らも俺のことそうは言えないだろう。
俺は心の中でそう呟きながら、まわりからの視線を気にしないように、無言で自分の席へと戻った。
そしてその翌日。
夢の通り、彼は事故に遭い、全治3カ月の怪我を負ったのだ。
——ホラ、ダカライッタダロウ?
しかし……状況は変わらないどころか、俺への批判はさらに強くなっていた。
「あいつがこの前の事故の犯人」
「あいつと関わると悪いことが起こる」
「あいつに近寄るな」
俺は、元から学校での人間関係が面倒くさく、クラスに馴染もうとか考えずに今まで学校生活を送ってきたために特別に仲のいい友達もいない。
しかしそんな噂が広がったことにより、学校はさらに息の詰まる空間となっていった。
いじめなどといった陰湿なものはなかったが、ますますクラスの奴らから「こっちに来るな」というような目で見られた。そして先生までもが俺をまるで罪人を見るような目で見てくるし、クラスの生徒からは当然のように無視される。
——それは、凄まじく辛い日々だった。
この時この変な能力を、何よりあんなことを言ってしまった自分自身を、俺は心から恨んだ。
それは小学校6年生の時、今から5年前のこと。
この出来事から俺はこの先普通生きると誓い、自分の変な能力を誰にも言わないと心に決めていた。
絶対に。
もし、この世に神がいるならば。
そしてその神というものが全人類の運命を決めていて、俺らは神によって敷かれたレールの上に沿って生きていくしかないならば。
神はとんでもない気分屋なのだろう。
そして俺はずっと、こんな運命を与えた神という存在を恨むだろう。