ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 能力者Lvゼロ ( No.124 )
- 日時: 2010/12/08 16:04
- 名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: xiz6dVQF)
「知っているか? 神ってのはな、人間の手の届かぬ存在になってこその神なのだ。 例えば、凍てつく炎で周囲を焼き払ったり!」
その言葉と共に、童子の周りを異様なまでに冷え切った冷気が包む。 その冷気は直ぐその場で一点に集中し、周囲に青い炎を振りまいた。
童子がそれに手をかざすと見る見るうちに炎は燃え広がっていく。
「俺の様にいくら神の力を持とうとも、いくら人間を従えようとも……! 人間ごときでは神には成れない。 俺はそれを既に経験し、理解した」
シグマは不思議そうに炎を凝視する。
確かに、その炎は熱気ではなく冷気を放ち、見る見るうちに周囲を凍らせていくのだ。 凍った所から再び炎が噴出し、どんどんその規模は広がっていく。
次第にシグマの顔に焦りが見え始めた。 リセット能力は、万能ではない。
シグマの両腕に炎が燃え広がり、氷で動きを封じる。
「テメェ、俺の魔力切れを狙って……!」
シグマは悟ったように自分の凍った手の平を眺めるとその後、童子を睨み付ける。 鬼のような形相のシグマとは反対に、童子は楽しそうに笑っている。
その不快な笑みに、シグマは何も考えずただ突進した。 遭えなく童子の大剣で薙ぎ払われ掛けるが、寸前で気づいてシグマの髪をかする程度で済んだ。
「そうだ、能力者の能力を発動するに当たって必要なのは魔力! 元々人間には生きていくうえで魔力など必要ない故に、魔力が底を突いてもなんらダメージは無いだろう。 だが、それは能力の消失を意味している。 能力者は、単純に人間にしては多すぎるな魔力を持った人間というだけだ。 魔力は! 人間には実際、毒と変わらない! 故に能力を発動する事でその魔力の毒性を放出しているに過ぎない!」
童子のその言葉を裏付けるかのように、シグマはリセット能力を発動しようと試みているのだろうが、発動しない……!
だが、その一方で童子の側も限界が近かった。
軽く息を切らす童子を前に、シグマもそのことを悟ったのだろう。 口元が笑っている。
「……気に食わねェ、奴と同じ目をしてる」
その笑は童子を不快にさせ、シグマに余裕を与えた。
「誰と同じ扱いを受けているかは知らないが、いくつかこのやり取りの中で分かった事がある。 黒薙童子、あんたの魔力は生命エネルギーと等しい働きをしているようだな。 あの程度の運動であんたの息が切れるはず無いだろう。 能力を発動してからあんたに疲れが出ている、つまりあんたは人間ではない。 何者だ?」
シグマは両手の氷を無理に叩き割り、童子は大剣を握りなおす。 シグマの感は正しい。 童子は魔力を生命活動に当てる、人間ではない性質を持っている。
「中々の洞察力だな、その目玉は節穴ではないようだ。 俺は確かに魔力を生命活動に利用し、人間でもない。 そして、今しがた貴様の魔力を共鳴放出させるのに九割がた魔力を消費している。 この意味が分かるか……? 俺は、もう既に自分の命を捨てている。 魔物型の俺の中において魔力は生命エネルギーだとは理解しただろう? 生命エネルギーの残量は、最低でも二割残っていなければ回復の見込みはゼロ。 つまり、俺はもう死ぬしか道は残されていない。 それが弱った貴様と共に死ぬか、俺だけが時間切れで死ぬか、その二通りの死に方があるがな」
その言葉を終えると共に、童子は軽くその場でふらつき始めた。 どうやら、童子の言葉は本当らしい。
ならば、シグマはシグマで手はある。 まさかこんなビルを攻めるのにボス一人で乗り込む馬鹿が何処に居るものか?
シグマは先ほどから部下を待機させている。 しかもレベルⅣの精鋭だ、笑が止まらない。
笑うをこらえるように、シグマはつい先ほど入ってきた部屋の扉に一瞬目をやり、
「そうか、良いことを聞いた。 ならばあんたの始末は部下に任せるとする——…」
その言葉が終わるか終わらぬかの内に、童子はシグマの両腕を封じた上で扉の方へ向くと、
「今だ! 殺れッ!」
大声で叫ぶ。 今すぐにでも死にそうなまでに弱った童子の腕だが、シグマの両腕を封じるには十分だ。
扉の影から現れたのは、刃渡り50cm以上はある剣を片手に持ったヤマ。
「こいつを殺せ!」
シグマはヤマに命令する。
そして——…、
「了解しました、今すぐにでも殺しましょう」
その言葉が終わる前に、ヤマの持っていた剣が二人の心臓を正確に串刺しにした。 シグマは自分の胸元から血が噴出す様を不思議そうに眺めている。 童子は、刺さっている確認だけした後、ポケットを探ると携帯電話を取り出し、メールを打ち始めた。
「お前……何故……ッ!」
その言葉と共に、シグマの心臓は動きを止めた。
魔物型の生き物は、心臓を貫かれても即死することはない。 十分足らずではあるが、確実に生きていられるほどの生命力があるのだ。
メールを送信した事を確認すると、童子は安息の表情を浮かべ、
「ヤマ、ナイス。 こんな大仕事をよくやってくれた、次のボスはカイトだと栄王の連中に伝えてくれ。 それと、この鍵をお前にやる」
ただそれだけを言い終わると共に、糸が切れた人形のようにその場で息を引き取った。 あのダイアル式の鍵が、 ヤマの手の中に落ちる。
その直後、大きな地震が起きたかのようにビルは一気に崩れ落ちた。 童子とシグマの死体を覆い隠すように、大きな音を立てて。