ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 能力者Lvゼロ ( No.125 )
- 日時: 2010/12/08 10:44
- 名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: xiz6dVQF)
栄王旅団の拠点ビル崩壊数秒前、クラウンは水の中に沈んでいる感覚を覚え始めた。 それも、事務所にいながら、その場で水に浸かっているような感覚を……!
話し相手になっていた奴もどんどん気配が薄れていっている、恐らく今いる場所は脳の勝手に作り出した幻想の中!
このまま目を覚ませば蘇生できるが、聞かなければならない深層意識の奥に沈んだ情報を聞くチャンスは他にあるのかどうかも怪しい。
聞くのなら、今だ。
「最後の質問、能力者は何故この世界に存在するの?」
その質問は、相手にも難しかったらしい。 場合によってはこいつにもわからないだろう。
長考の末に、そいつは口を開いた。
「能力者の概念は魔神にでも聞いてくれ、俺は知らん。 お前の能力の話だが、俺との遭遇で一気に変異するからその辺ヨロシク。 じゃあ、またな。 “無”能力者、クラウン。 もう俺と会うことは無いだ……ろ——…」
そいつの言葉が終わり掛けた所で息にクラウンの目は覚めた。 息が苦しい、速く岸に上がらないと……!
だが、岸には上がれない。 体が重すぎる!
ふと右肩を見ると、いつぞやのA-01が未だに喰らい付いていた。
どうやら水中という事もあって出血毒による失血死は免れたようだが、完全に死んだこいつの顎を無理やりこじ開けるのも骨が折れる。
直後、クラウンは左目に異変を感じた。 何が起こったのかは定かではないが、その感覚と共にA-01に喰らい付かれていた肩が一気に軽くなった。 どうやら、ひとりでに外れたらしい。
「う゛っ!」
早く息を吸わねば。 またあの事務所に行く羽目になる。 だが、それもそれで悪くないが、そんな事をしていたら進めない。
兎に角息をしなければいけないという本能に沿って、体は意識とは無関係に水面へと一直線に泳ぎだす。
「ッハア!」
思いのほか酸欠だったらしく、空気を吸ったとたん一気に体が軽くなった。 直後、左足に不可解な重みを感じた。
それは勘違いではなく、明らかにクラウンを喰おうとしているように見て取れる。
とっとと黙らせて岸に上がろう。
そう考え、再び息を大きく吸うと潜って相手の姿を確認する。 なんだか、骨ばったタコみたいな生き物が足を捕らえている。 しかも、結構大きい。 体長は……10……12mはあるか?
そんな大タコが何本もある足の一本を伸ばし、クラウンの右足を掴んでいたのだ。
クラウンはとっさに右手を脇に引いて臨戦態勢へと移る。 今現在特にこれといった武器は無く、コートのポケットの奥に眠っていた何時使ったかもわからないような二本の曲刀位しかない。 しかも、錆び付いている上に、斬れるかどうかも怪しいうえ、明らかに水中では飛ばせない故の陸上では補う事ができた弱点がそのまま残っている。
明らかに分が悪い、
「隙突いて……逃げよ」
その言葉と同時にクラウンは曲刀を右足に絡み付いていたタコの足へと突き刺し、怯んだ所で無理にその足を振りほどいて岸へ向って全速前進。
自分でも驚くほどのスピードで泳いでいた途中、人影が見えた。
それがなんともおかしな格好で、クラウンは呆気に取られた。 基本桜模様の着物と洋服を合体したような服で、帯が地にこすれるほど長く、後ろ髪に問題は無いのだが、前髪などは明らかに適当に切ってあるだけだ。
彼女はクラウンの方を向き、
「……危ないよ? 早く逃げないと……そのタコちゃんと一緒に串刺しになっちゃうよ……?」
彼女はクラウンよりもタコの方に気が行っているのだろう。 タコを見ながらクラウンに警戒を促す。
クラウンがその言葉とほぼ同時に岸へ上がると、その後を追ってきたタコを彼女は手の平から突如出現させた刀で全ての足を一瞬にして輪切りにし、満足そうに微笑んだ。