ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 能力者Lvゼロ      ( No.141 )
日時: 2010/12/10 22:11
名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: xiz6dVQF)

楓は湖のほとりの小屋の裏に留めてあったバイクに股がると、そのままエンジンをふかす。 そのバイクのデザインの悪さといったらこの上ないものなのだが、童子の支給品らしく、大切に扱われている形跡がある。 
剥がれた塗装が幾重にも塗りなおされ、バイクの黒いボディが独特の光沢を放ち、不器用にサドルの破けた部分を張りなおした形跡も。
デザインを除けばずいぶん美しいものだ。

「……後ろ、乗って。……栄王の拠点の一つに向うよ」

帯を腰に縛り直し、楓はクラウンを後ろに載せるとそのまま道とも言えぬ道をフルスロット、全速力で走り抜ける。 途中、大きな岩などで大ジャンプを繰り返し、湖の周りを囲む森を抜け、広大な荒地へと飛び出す。
よく漫画などである動物の骨をバイクのタイヤが躊躇無く轢き壊し、道なき道を進む。


ほぼ同時刻、クレイクロア本部ビル__


金属で出来た壁を天井の蛍光灯が照らし、反射した光は束となり、足元を照らす。 政府は綺麗好きだ。
どうしても自分達の手は汚したくない。 国民の信用度が下がればそれまでだからだ。

「フン、何時見ても反吐が出るほど綺麗過ぎるビルだ。 脳の穢れはこの程度では隠しきれていないぞ、山吹 紅葉」

銀髪の短髪をクリクリと弄くりながら男は青い瞳を近くのデスクに向っていた女、山吹 紅葉へと投げつける。 その間、偉そうにふんぞり返ったその男は詰まらなさそうに数字の羅列の記された書類に目を通す。
その言葉に対して、

「大丈夫よ、アンタ程穢れている人間はここには居ないわ。 居るんならお目に掛かりたいくらいよ、ジェームズ」

紅葉は長い黒髪を揺らしながらただ一箇所を除いて童子と同じ、紅い瞳を男に向ける。 殺気の篭ったその視線は、大概の人間であれば足が竦むようなものだ。その視線を受けても臆すどころか冷笑しつつ、

「ふ……は……ハッハッハ、まったくだ! で、面白い話があるんだが——…」

「止めを刺す直前の相手の言葉とかは勘弁してよ」

紅葉はジェームズの話を当たり前のように遮るが、

「いや、今回は違う。 紅葉。お前の弟、黒薙童子が死んだ。 それも、シグマの馬鹿が部下と信じきっていた童子の部下に童子もろとも串刺しにされてだ。 笑っちまうだろ? 所詮栄王は牙、シグマは身を守る角しか持って居なかったわけだ。 角では牙を持つ強者を捕食できなくて当然だな」

童子が死んだ——。 その言葉に彼女の絶え間なく仕事をこなし続けていた手が一瞬止まる。
だが、三秒もしないうちに仕事を再開し、

「——そう、別に構わないわ。 仲間にならないんでしょ? 前もそうだったもの、私の居た組織を壊滅させられたわ。 おかげさまでその後大変だったんだから」

いい気味だとでも言わんばかりに彼女は微笑み、ジェームズは詰まらなさそうに椅子にふんぞり返って座るのをやめ、仕事へと戻り、

「次は、……紅葉が栄王を消す番だ。 いつでも良い、レベルゼロ能力者クラウンを奪取して来い。 奴の力は味方につけなければいずれ俺達の敵に成りかねない」