ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 能力者Lvゼロ      ( No.166 )
日時: 2010/12/18 20:28
名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: xiz6dVQF)

教会にクロアが襲来するのとほぼ同時刻、ハイペロ街跡地__

ここは昔、町が存在した。 魚介類が主要産物で人通りも多く、現在の主要都市に負けず劣らず活気があり、人の良さは現在の都市を軽く凌ぐ。 そして、歴史上最も罪無き血が流された所だ。
現在は海が近かったのが災いし、都市跡は海に沈み、人々の記憶の底にも沈んでいた。 
恐らく、文献で調べても載っている物など皆無だろう、この町の消えた原因は全て現在の国家にあるのだから。 
この町の起源は今より4000年前まで遡る事が可能で、1000年ほど前まではまだこの町に人は居た。 だが、それらは全て現在の政府、“グレース”が戦争によって焼き壊し、全てを無に帰したのだ。 それは突然始まった、今はもう覚えている者など居ない。 先住民は根絶やしにされたのだから。 恐らく今は先住民や移住民に変わって魚が住み着いている事だろう。
で、そんな海域で今は何をしているかというと……、

「魚雷発射! 敵船の砲撃に備えよ、奴らはこの艦隊に乗り込んでくるぞ!」

一番大きな空母にも似た巨大な戦艦から指令を出す一人の男の一言で、魚の都市も壊滅していた。 浜辺付近での魚雷は流石に無理があるだろうが、そのほかにも大きな問題は多々ある。
狙っている船が艦隊と比べると明らかに小さなシップと呼ばれる帆船で、映画などではよく海賊船に使われる船だ。 それに、艦隊はあろうことか三十隻以上がその船に狙いをつけ、巨大なレールガンを構えている。
相手は木製の艦隊の一隻が体当たりでもしようものなら軽々と沈むであろう帆船。 艦隊の勝利は見えているにもかかわらず艦隊は魚雷を発射する手を休めない。 終いには、全ての船にレールガンがその小さな帆船を狙う始末。 一体この船が何をしたと言うのか、鮮やかな色の紅い帆が問題なのか?

「レールガン発射用意! 魚雷で沈まなかった場合を考え船の横腹を狙え、威力は電磁レベルⅩだ!」

偉そうなひげの中年男が紅いベレー帽を被りなおし指揮を続ける。 だが、一方的にに攻撃を受け続けている帆船は沈む気配を見せず、涼しい顔をしている。
それに反し、海中では魚雷が次々と当たっている。

「司令官! 敵船は一向に沈みません、砲撃許可をお願いします!」

階級が一つ下なのだろう、緑のベレー帽を被った背の高いひげの男が司令官に現状報告をした直後、

「レールガン発射!」

指令は砲撃命令を出すが——発射しない? 故障か? いや、まさか全て? 
……。

「そこの奴! この船の食料を全て持って来い。 ……別にお腹がすいたわけじゃないんだからね!」

そんなツンデレ常套句と共に、赤と青のオッドアイが司令官の動きを止める。 そう、この艦隊は既に壊滅していたのだ。 魚雷は水中だ、それに相手に見つからぬよう泡も出ない。 魚雷の砲撃をしていたのはこの船だけ、そして、他の船は既に壊滅している……!

「ジェリー、元気になったからってそんなに暴れちゃ駄目よ。 レインも何とか言ってあげてよ!」

麻記那が泡を吹いて気絶した司令官を海中に軽々と片手で投げ込みながらジェリーの世話役と化しているレインにも注意するよう促すが、

「元気になったのは何よりだと思いますけども。 と言うか、瞬間治癒能力を持った人二人が同じ隊に居て大丈夫なのか? 俺としては片方居てもどうしようもないと思うのだが……」

レインが麻記那の言葉に携帯ゲーム機のキーをいじりながら答える間、シェリーは嬉々としてハンバーガーを齧っていた。 

「まあ、何でもいいわ。 ジェリーの事は頼むね。 私はまだ……」

何かが空から艦隊の上の三人めがけて飛んでくる! 形状からして戦闘機で、恐ろしく早い!
そして——…。

「用事が終わってないからさッ!」

麻記那の言葉と共に、それは艦隊を狙ってきたミサイルの如く特攻を仕掛け、墜落した。 壊れてゆがんだ入り口が砕かれ、中から人影が現れる。 その人影は不意に口を開き、

「久しぶりね、鳳。 童子が死んだってホント? 私どうしても童子を殺してやりたかったのに……!」

「……ホントよ。残念だったわね、山吹紅葉!」

童子の姉とは思えぬような言葉を残念そうに言い放った。
雲ひとつ無い青空に爆炎が立ち昇る。