ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 能力者Lvゼロ      ( No.214 )
日時: 2010/12/28 21:06
名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: xiz6dVQF)

クロアがユーリへと歩み寄る。 その足音は死の足音とでも言うべきものだった。 静かで、静かな廊下に響き渡り、そして少しずつゆっくりと近づいてくる……。
自分には歩く足がある。 だが、その足音からは逃げ切れないと確信できる。 本能が、無駄な抵抗をするなと叫んでいる。

「あれ? 逃げないってことは諦めたのかな? そうかな? ……そうなんだ、君にはずいぶんがっかりさせられたな」

静かにクロアがユーリの目の前へ、その手が後50cmへと迫ったそのときだった。 

グォォン!

と言う爆発音がクロアの足音をかき消し長い廊下に響く。 そしてそれは相当近くで、それもかなり大きな爆発が起きた事を物語っている。 そして次の瞬間、天井が崩れ、瓦礫と共に降りてきた二人の人影が同時にクロアを蹴り飛ばした。
砂埃と共に、その二人はカイトとシェリーだと言う事が分かった。 が、カイトは能力者ではなく、シェリーにいたってはレベルⅢ。 この場では役に立たない……!

「何しに来たんだよ、早く——……!」

「逃げるぞ、ユーリ。 シェリーが足止めしてくれるらしいから早く走って逃げろ」

その言葉の直後、カイトは崩れた天井から上のフロアへと戻っていった。 その場にシェリーだけが取り残される。

「何してるんだ、お前も逃げろ!」

「そうは行かないわね、今まで非戦闘員でもないのに回りに頼りっきりだった私もたまには命がけで戦わないとね。 軍隊に居た頃をおもいだすわ」

ユーリの言葉になど耳を貸さず、シェリーは何も持っていなかったはずの手の平から無数の手榴弾をクロアめがけて飛ばし、一斉爆撃を手始めに、その場爆炎をなぎ払い姿を現したクロアに左ストレートを入れ、それが止められることを見越して右手でマグナムの銃口をクロアの眼帯に突きつけていた。
シェリーは躊躇無く引き金を引く。
一瞬クロアの頭が後ろに刎ね飛んだように見えた。 が、瞬きをすると共にその頭は元の位置に戻り、平気な顔で眼帯を付け直している。

「で、これで終わり? 手数は確かに多いけど、一撃一撃が弱いね。 まあ、女の子の腕だし当然か」

「君の話とはまったくないことを聞くので悪いんだけど、それって“金の砂時計”?」

クロアとはいったん距離を置き、シェリーはマグナムの弾を装填する。 相当手馴れているらしく、ポケットから6発を取り出すと空薬莢を捨てるとほぼ同時に装填を済ませ、クロアの攻撃に備えている。
そして更には、装填中にクロアのほうを向いたままだ。

「意外だな、君に使ってる能力を見破られるなんて。 その通り、シグマ・タイムドレインの“金の砂時計”だよ。 ボクだけじゃなく、ジェームズも使える」

その言葉の直後、シェリーの立ち居地が一瞬にしてクロアの目の前に飛んだ。 クロアは動くそぶりを見せていない、明らかにこちらが動かされている! 銃を放つも空砲、“金の砂時計”か!

「さよなら、シェリー・J・アンダーソン。 違うところで会ってたらボク達は良い友達になれたかも知れないな」


その言葉と共に、長い廊下を黒い閃光が駆け抜ける。 光が収まるとと同時に、シェリーはその場に膝を突いた。