ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 能力者Lvゼロ      ( No.258 )
日時: 2011/01/08 15:20
名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: xiz6dVQF)

……そう、アレは7年前の事だ。

私は能力者研究施設にいた。 何故そんな所にいたのかということは分からない。
造られたのか、はたまた捨てられたのか。 だけど、そんなことは如何でもよかった。 そう、気にならないくらい小さな事だったんだ。
その施設は、能力者を兵器使用する目的が大きく、日々能力の発現しない者、能力の弱い者を見せしめの様に拷問に掛け、その恐怖で10歳未満の私達を支配していたのだ。
もちろん、相手はただの一般人だが、抵抗しようと言う気を起こさせぬよう、恐怖政治で!

そんなある日、事件が起きた。 私の将来入隊するであろう地獄の番犬【ケルベロス】入隊予定の実験体が施設を脱走したのだ。 もちろん、そのとばっちりは私達に来る。
同じ部屋で寝起きをしていた私達が何故止めなかったのだ……と、言い掛かりにも近いそれはただの虐待だった。
そして、私と逃げる事のなかったもう一人が見せしめに、逆さ吊りにされ、鞭で何度も叩かれた。
痛い、日々の訓練で負った傷が再び裂けて、血が流れ出て、それでもお構いなしに叩き続ける。 私は馬じゃない、鞭で叩かれるような事は何もやった覚えは無い。
そうだ、奴らの恐怖政治をそのままやれば良い。 相手には力があって私達を圧倒している。 だったら私が圧倒的な力で相手を圧倒すれば良い。
幸い、能力はそれに見合った物だ。 政府の攻撃軍で最小にして最強の戦闘部隊に入団できるこのチカラで。 相手を圧倒すべく使うこの力で研究員達を圧倒すれば良い。
そうすれば、相手も同じ目にあって悪い事をしたと思うはず……。


そんな考えで、初めはそんな考えだった。 だけど、全部失敗した。 研究員は全部殺した。 でも、満たされなかった。
この世界は無情だ。 頑張っても救われず、ただただ力による支配が全てなんだ。
だったら私は、支配されるのではなく支配してしまおうと。 その日から全てが、研究施設壊滅から2年間、人を、一般人を、常識人を殺し続けた。
躊躇無く、人の心を持たず、無情に、周囲と同じように、生き残るために……!
だが、それは実らず満たされない。
いくら殺しても、いくら残虐にバラバラにしても、内臓を引きずり出して人目のつくところに撒き散らしても……。
経験値は溜まらず、ただただ時間ばかりが過ぎていく。 無力なまま、強くもなれず、ただの殺人鬼として。

「そうだ、私は強くならないと生きてはいけない。 殺人鬼ではいけない、支配しないと駄目なんだよ」

まだ、記憶の欠片が流れ出てくる中、両手に黒い炎を灯し、明らかに攻撃してくるであろうクロアを視界に確認した。 それとほぼ同時に、体は勝手に動き、白い雷電で反撃する! だが、クロアはクロアで両手の炎を盾に相殺する!
そんなやり取りのうちに、クロアの直ぐ目の前まで接近していたクラウンが、クロアの頭を掴む。 

……化物になったって良い、強ければ良い。 支配できれば良い、生き残れれば、生き残るために、……力は絶対必要だ。
古式騎士が壊れた今、レベルゼロ以外は能力を扱えない。
そうだ、私が、

「この世界の王だ!」

その凄まじい咆哮と共に、掴んでいたクロアをクラウンは易々と投げ飛ばす! もはや怪物。
殺人鬼なんかずっと昔に卒業した、誰にも人間とは呼ばせない!

私は、

「もう、人間じゃないよね? 人間を、超えたからチカラを扱える。 そうだよね?」

「そんなわけ無いだろ。 人間であるボクがチカラを扱っている以上、君も同じ人間だよ」

まだ、人間なのか? まだ、足りないのか? まだ、殺さなくてはいけないのか?
化物は自問を繰り返す。 自問だけでは答えは出ない、自答では答えではなく自己満足。
出口が無い迷路は、出られない。 平面では物を跨いで越えられない。 誰かが三次元から迷路を書き換えてやる必要がある。
悪意の無い、仲間が。