ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 能力者Lvゼロ      ( No.260 )
日時: 2011/01/09 17:32
名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: xiz6dVQF)

クラウンを鎮める方法は至って簡単だ。 偽りの美しい記憶を古い忌まわしい記憶の上から塗って塗りつぶせば良い。
そうすることで、自らが力を求め、化物と化すのを疑問視し、今の状態はキャンセルされる。 そして、塗りつぶす記憶にもよるが大人しくなる。
だが、それには問題がある。 
まず一つ目、その記憶がクラウンにとって美しい物なのかと言う事。 これを間違ったらそれまでだ、記憶の塗りつぶし作業は上書きすればするほど剥がれて確実ではなくなっていき、下手をすればまた最初からやり直しだ。
次に二つ目、消去されてしまわないか。 上書きに成功したとしても、能力で記憶を消せばやはり、その前の記憶、ひとつ前の記憶が剥き出しになり、失敗する。

「サジ加減の問題なんだよね、結局の所。 クラウンの行動まで作れるわけじゃないし、結局は最後は運……。 だけど、ボクの体力も能力も炎を使った結果もうガス欠だし……」

そして、ここで三つ目の問題。 記憶を上塗りするとなれば、炎クラスの高エネルギーを要する。 その上、今のクラウンは攻撃的でこの上なく危険だ。
下手に近づこうものならその雷電で消し飛ばされてしまう。
だが、今残っている手持ちチップは一枚。 記憶の上塗り一回に使ってしまえば数枚の小銭に変わってしまう。
だけど、後が無い状況だ、躊躇したら死んだ後で後悔するだろうし、死んでも死に切れないとはこのことだ。 躊躇して出し渋ってあの世で後悔するのも嫌だ。
だったらやる事は一つ。

「何を企んでる? 君は策士だ、私を陥れる。 そうさ、人間は皆嘘の塊、信用は出来ないよね? そうだよね、間違ってないよね? 私が……正しいんだよねッ !?」

闘争心に任せ、クラウンがクロアへと猛突する! しかも、全身にあの白い雷電を纏っている。 近づきすぎれば、触ってしまえばそれまでだ、黒い雷電で相殺は可能だが、それを使ってしまえば記憶の上塗りが出来ない!
防御はせず、攻撃を避け続けまずは相手の体力を削る。 相殺するとしても一回だけだ。 だが、しくじってエネルギーを多く使ってしまえばそれが最後、上塗りできる確率が一気に下がる!
そんな迫り来るクラウンとの対峙する一瞬のうちにクロアの脳は最善ともいえない行動に出た!
純白の閃光を顔面擦れ擦れの状態で宙に避けるとそのまま後ろを取り、極小さな黒い雷電で白い雷電のバリアに穴を開けるとそこへ躊躇無く腕を突っ込みクラウンの頭に手をかざした。

「うん、ボクもボクなりに考えてみたけどさ、やっぱり後悔したくないんだよね。 持ってるエネルギー全部使って止めさせてもらうよ、小銭物課さず綺麗に使い切って。 失敗して君に世界を消されたらたまったもんじゃないからね」

クラウンの頭にかざした手の平に、あの黒い炎が灯る。 もちろん、今のクロアは能力の発動量が多すぎてエネルギー切れのガス欠。 立って、白い雷電に触れぬようにするのが精一杯だ。
額に冷や汗がにじむ。 
これで上手くいったのか、これで終わったのか、正しかったのか、間違っているのか。
頭の中はもう既にカオスだ。 自分の思想など殆んど無く、信念によってクロアは突き動かされている。
そして、それを気力で支えている。
……。

「……終わった」

クロアのその言葉と共に、クラウンは意識を失い砂に膝を突いた。 だが、その鬼のような形相は戻らず、ただただ、クロアを空しさが襲う。
自分がやった事は正しい、現にクラウンを鎮められたじゃないか。 だが何だ? この空しさは、この満たされぬ感じ、この無力感……!