ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 能力者Lvゼロ      ( No.282 )
日時: 2011/02/07 17:38
名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: xiz6dVQF)

さあ、全てが終わった。 これで事務所の扉をシェリーが開くと共に、そこにクラウンが居ると言うような事もない。 それはありえないし、有ってはいけない事なのだ。 
もしそれが現実に起こってしまえば、神をも超越したその能力に天照は目をつけ、新たな神として役職を与えるだろう。
だが、それも魔神が許さない。 何故なら、死ぬ事なき人間へと変わることだからだ。 即ち、人間として、クラウンは死ねない。 それも、魔神の手違いでそれが起こってしまえば、彼女は神としての役職をクラウンに与え、死ぬ事なき生命に変えた天照を殺すだろう。 それほどまでに、彼女の死ねないと言う価値観は、人間とは大きく異なる。
大体、不老不死は人類最後の夢と言われているが、それを成しえぬように魔力と言う名のまがい物を与えているのは彼女だ。
そして、そのまがい物には確かに寿命を延ばす能力が存在するが、それと共に、寿命ではなく“人間の命”を蝕むと言う危険性も併せ持たせている。
故に、人類はそこで永遠に魔力を研究し続けると言う狙いが彼女にはあったのだ。 だが、その策も一人の天才によっていとも容易く暴かれた。 そう、黒薙童子だ。 
彼の魔力の研究データと実験データを照合して見た後の第一声は、

「お前ら、何やってんの? 明らかに最初のデータと最後のデータじゃ同じ実験で結果も違うだろ? 魔力に不老不死にする力なんかねーよ」

と言う、核心を突いた発言だった。 もちろん、その言葉は魔神の耳にも届いたが、彼に罪など無い故に、放っておかざるを得なかった。
もちろん、その時殺してしまっていれば能力者達の間で大きな騒ぎになどならなかったのだ。 だが、彼女に対しての罪は彼にはない。
殺せない。 だが、殺したくも無い。
そんな中、魔神に良いチャンスが巡ってきた。 もちろん、天照の気まぐれだろうが、白銀純率いる、部活動メンバー黒薙童子達が人間界の魔力研究施設を破壊して回ったのだ。
それは、この上なき良いチャンスだった。 もちろん、童子に能力を与えた。 そして、

「このことは誰もしらなかった。 見ても居ないし、君は何もしていない。 魔力の研究施設も、政府の陰謀も最初から無かった。 ……いいね?」

その言葉が、後に彼女に有利に働いた。 後の黒薙童子率いる栄王旅団がクレイクロアを半壊させ、クロアに対する国家の呪縛が解けたのだ。 その後、魔神である彼女を狙う国家の戦闘能力は著しく衰退し、彼女自身の手を下さずとも殆んど消えかかった塵同然までに弱りきった。
そして、後は止めを刺すだけだ。
それは、黒薙童子の死後、カイト率いる栄王が国家をほぼ完全に壊滅させた。 そして、能力者の能力の管理を受け持つ古式騎士ゼロ型が破壊され、生きた能力者の能力は暴走し、消え去った。
だが、魔神本体がマザーボードである栄王及びクロアの部下は能力を失っていない。 そして、天照の定めた制定に反していたクラウンは一度死んだ。
準備は整ったのだ。 今頃クラウンはモノクロカラーの走馬灯を見終わり、あの世へ向かった頃だろう。
そう、それで良い。 あの世には閻魔大王の息の掛かった部下が居る。 クラウンは、彼の保護下、管理下に置かれ、その命、魂の所有権は天照から閻魔大王へと移る。
そして、全てがそこから始まるのだ。

「さあ、全てを始まりに帰そう。 そして全てを魔力と言う名の夢から解き放ち、世界を平常に戻す。 それで、全てが助かる」

紅い帆の帆船の上で彼女は静かに微笑んだ。