ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 能力者Lvゼロ ( No.286 )
- 日時: 2011/02/28 15:57
- 名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: 9YJBGiMA)
さあ、目を覚ますとここはもうあの戦場跡——……というわけでもなさそうだ。 何でさっきから、本に囲まれたところで目を覚ますのだろうか……。
しかも今回は、360°全方位が本によって埋まっている。 いや、巨大な塔のなかなのだろう。 天井は……吹き抜け……? では無い、絵だ!
最下階の床から、5本の螺旋状の階段が、天を突くかの如く最上階へ伸びている。 そして、最上階から……誰だ?
私を眺めているのは……。
「来るなら早く来て。 私はそう気が長い部類の生き物ではない」
突然脳の中にその言葉が響く。 どうやら、生き物と言っているところからそいつは人間と言うわけではないらしい。 そして、明らかにこの空間は外界から孤立している。
ここまでの蔵書量、私有物でなければ、人が来る。 そして、私有物であったとしても、学者が調べごとにでも来るだろう蔵書量。
一体……ここは何処だ?
「怖がってるの? ハハハ、無用な心配だ。 私が殺すのは私しか居ない、君は私ではないからね、私でなければ大歓迎。 もう何千年もここで退屈しているところだ」
その言葉に反応し、体が勝手に階段を駆け上る。 もちろん、自分の意思とは裏腹に、その“誰か”に引き付けられるかのように……!
「さあ、早く来い。 私は今まで話し相手を欲してきた」
「ほら、早くしろ」
「早く」
「さあ……」
階段を上り終えると、そこは広々とした空間が存在していた。 さっきまで居た、シックな雰囲気の図書館のようなところとはまったく違う空気……。 何だろう? 日が当たっていて暖かい。
とても気分がよくなり、居心地がいい。
「やっと……上り終えたのか。 待ちくたびれた」
その“誰か”が、近寄ってくる。 そしてその姿には、見覚えがあった。
「……魔神?」
「アリソン・ファネクストス・セイファート……だ。 最も、外界の私はファネクストスではなく、フェネクスと名乗っているようだが——……」
けれど、その姿は最後に見た彼女とは、似ても似つかない。 明らかに、その姿は13、4歳。 そして、あの活発な感じは皆無。 仕草が年寄りのそれだ。 そして、この黒を基調として白いラインが蜘蛛の巣のように張り巡らされた風変わりなデザインの制服姿……。
「あのさ、つかぬ事を聞くけども……君……だれ?」
「先ほど名乗っただろう、それで勘弁してもらえないか」
「いや、そうじゃなくてさ、君の——……」
「正体のほうか。 話せば長くなる、その話はこの続編で聞くことだな。 差し詰め、今の混乱しかけの君はこの塔に迷い込んだ不思議の国のアリスと言った所か……。 君にはこの後、再び大仕事が待っている。 閻魔大王から聞いただろう、二度目の、魔力の暴走だ。 ここにはその記録と、予言がある。 ……最も私は、ここに私が来た場合、その外界に居る私を殺す役目を司っている。 故に、この世界に迷い込んだ来客は、私でなければ手厚く迎え入れる。 久々の客だ、1000年以上も人と話していない故、多少の感覚のズレは許してほしい。 さあ、君はコーヒーと紅茶。 どっちが好みだ?」
- Re: 能力者Lvゼロ ( No.287 )
- 日時: 2011/03/01 13:29
- 名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: 9YJBGiMA)
「いや、お茶の前に……」
「私の正体を知りたいか、良いだろう。 簡潔にまとめて言うとだな、私はここでフェネクスとなった私の、名残だ。 ただの、痕跡に過ぎない。 そして私はここに、確かに存在し、確かに生を持って、存在意義を探す。 その存在意義こそが、罪を犯した私自身の殺害というわけなのだよ」
えー……と、話の真相が見えてこないのですが。
情報を整理するとまず、痕跡って事は、あれだ、アリソンの人間時代の姿ということだ。 そしてこの姿は恐らく、外界の彼女より幼い故に、死んだその時の姿のまま、ここに居るのだろう。 そして、注目すべくは、自らが罪を犯したと語るということ。
つまり、彼女は何らかの形で、ここで、人間からフェネクスへと変貌を遂げたのだ。
「どうして……フェネクスに……?」
「禁書を開き、死ぬ間際に偶然開いたページの悪魔を召還した。 それが、ソロモンの悪魔第37の柱、フェネクスと呼ばれる不死鳥だ。 その伯爵は、私が殺される間際、私が生きながらえたいと望んだと感じ取り、私を自らの後継者として、彼は死んだのだ。 そして、その場に残った閉鎖空間に今存在する私と、外界で神の定めた任務を全うする、フェネクスの力を得た私が誕生した。 そして、外界へ居る私は、数万年間の歳月のうちに無数の強者を打ち破り、今に至るほど、強く、強大な力を勝ち取り続けた。 そして、悪魔達の中でも、トップクラスの力を手にし、ただの人間が、悪魔としてそこで君臨する資格を得た。 最終的には恐らく、私が悪魔の頂点へと上りめるだろう。 だが、ここに居るこの私がそれを許さない!」
その言葉とともに、彼女の背を突き破るかのように出現した金色の炎を眩いばかりに放つ翼が、周囲に積んであった本の山を一瞬のうちに焼き崩した。
「すまない、多少……取り乱した」
その言葉とともに、その翼は彼女の背に吸い込まれるかの如く姿を消した。 しかし、服には多少ではあるが、焼け跡が残っている。
「私は、君の知る世界以外の世界を知っている。 君が死んでずっと経ってから、この場所は作られた。 世界最大の蔵書量を誇る、図書の塔。 別名、知恵の塔。 それに対を成すのが、武術という武術を集めた、力の塔。 私は断然知識派の穏健派でね——……」
「いや、ちょっと待って。 なら君は、一体何なの? 痕跡といわれても、今一ピンとこないんだけど……」
「それもそうか。 しかし、君は中途半端な秀才だな……」
黙っとけ。 こんな本に囲まれて千年以上過ごした奴に言われたくない。 しかし、多少のことで興奮して話題がそれるということは、余程孤独で退屈していたということか……。
「五月蝿い」
「まあいい、君に分かるように簡単に述べてみよう。 彼女は悪魔で、私は天使というような物だ。 本来、表裏一体である魂の、光と闇に分かれた結果、私からあのような化け物が剥離され、誕生したんだ。 つまり、表裏が割れただけでどっちも私だよ」
- Re: 能力者Lvゼロ ( No.288 )
- 日時: 2011/03/01 21:54
- 名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: 9YJBGiMA)
詰まるところ、双子のようなものというわけか……? だが、いくつか疑問は残るし、納得できない部分も多々ある。
「次のってことは、まだ何かあるの?」
「いや、そりゃそうだろう。 文法をきちんと捉えればそうなる」
……。 マジか。 次って……、え? 何?
悪者やっつけて、めでたしめでたし……じゃ無いってわけ? じゃあ、今までの苦労は一体……。
「嘘だ……」
「いや、事実だ」
「止めて、そうやって追い討ちかけるの」
クラウンの発したその言葉の合間に、彼女は指を振って空から椅子とテーブルを引き釣り出すと、クラウンの背を押して椅子へと半強制的に座らせた。
「さあ、どうしようか。 時間はたっぷりとある。 この塔は外の今までで過ぎ去った時間であれば、その時空の何処へでも飛べる。 さあ、もう少し私の話し相手をしてくれ。 で、さっきの質問だが……コーヒーと、紅茶。 どっちを選ぶ?」
彼女の問いにクラウンは軽くふてくされて、
「紅茶」
呟くように答えた。
「ミルクは?」
「要る」
「砂糖は?」
「君の話は頭使うから、兎に角たくさん」
「……分かった。 すぐに作って持ってくる。 もう少し、待っていてくれないか」
END