ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 能力者Lvゼロ= “無能力者” ( No.5 )
- 日時: 2010/11/08 23:04
- 名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: xiz6dVQF)
「クラウン、この報告書デタラメよ。もう少し現実味のある言い訳を考えなさい」
金の長髪を束ねた少女が、黒い長髪を無造作に掻き乱した少女に青い瞳を向けて言い放つ。
もちろん、二人とも面識があり、同じ家に住み、同じ仕事をする仕事仲間であり、兄弟であり、姉妹であって家族である。
恋人同士、と言うのも嘘にはならない。
だが、その際に生じる矛盾は素通りに出来ない話である。
兄弟で姉妹で、恋人同士。
すなわち、どちらか片方、あるいは両方が男でも女でもあるわけだ。
「無茶を言わないでよ、ボクも結構頑張ったんだから。大男相手にこのか弱い女の子が立ち向かうなんてざらにできる事じゃないよ」
クラウンと呼ばれた彼女は、紅い瞳を文句をたれた彼女に向けて言い放った。
黒い彼女は手の平で真っ黒い小さな球体を浮き沈みさせ、適当な書類へのそばへと飛ばすと、それをひきつけたのを確認し、自分の手元へ黒い球体を手繰り寄せた。
手に取った書類をクラウンは面白くなさそうに眺め、
「シェリーは良くこんなつまらない物を眺めてられるよね。ボクはこんな数字の呂律を見ていたら気が狂いそうだ」
シェリーはそれを聞くと、呆れたように微笑み、
「私の数字化能力は貴方が持ち帰った戦利品ですよ。確か、瞬間暗号解読能力を持った能力者を殺したとき……でしたね」
「シェリー、ボクがそんなこと覚えてると思う? ボクの記憶力の悪さは知ってるでしょ?」
クラウンはシェリーの言葉に参ったと言わんばかりに呆れた顔でため息をついた。
それに比例し、シェリーは楽しそうに微笑むと、
「クラウン、貴方は好きな事の記憶力だったら天才的でしょ? それに、私は貴方のそういうところが好きだよ。自己中で我ままでいい加減なところ」
「それ、軽く馬鹿にしてない? まあいいや、次のターゲットは?」
クラウンは再びため息をつくと、近くにあったマグカップのコーヒーを飲み干してシェリーのパソコン画面を覗き込んだ。
無数の数字呂律のみでクラウンにはさっぱりワケが分からない。
恐らく、クラウンでなくともワケが分からないだろう。
「次のターゲットは、アクレイの 凶悪な連続殺人犯……って言うのはどう? 多分殺し方からして男だし、捕らえるのは楽じゃない?」
シェリーが悪戯っぽく笑うのに対し、クラウンの気体に満ちた顔は残念そうな表情へと変わった。
「ボクがその犯人を殺して反能力を手に入れて男になって戻ってきても、シェリーのハンティング能力でその能力を吸い取る時にボクはまたこの姿に戻るでしょ?」
そう言い放つと、クラウンは女の子には似合わない黒いロングコートを羽織って表へ出ると、タクシーを呼びとめ空港へと向った。
アクレイは、北へ数百キロ。
今日中に戻れるといいな、シェリーの手料理は美味しいから食べたいし。
そんな事を考えながら、クラウンはタクシーに乗り込んだ。
これが、残劇の引き金となるとも知らず、無の始まりとも知らずに——…。