ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 能力者Lvゼロ= “無能力者” ( No.85 )
- 日時: 2010/11/23 19:48
- 名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: xiz6dVQF)
一方、ユーリは時計塔の内部に住み着いていた野生のものとも言いがたいA-01の群れに苦戦していた。 A-01の特徴は、明らかな怪力だが、能力者の能力の前では殆ど効果を発揮できない。 だが、それをカバーするかのように恐怖心が一切無いが故に仲間が殺されても怯むことなく獲物へと猛突する。
こいつらを相手にするに当たってぶつかる問題は強さ、戦闘能力ではない。体力の問題だ。
「鬱陶しいわぁッ!」
炎をまとった斬撃があたり構わず乱れ撃ちされる。 だが、元々のこいつらのスピードも半端ではない、飛び道具は避けられる……!
21世紀に入ってもなお17世紀の遺物であるこいつらがいまだに一般に使われているのは大体がその運動神経からだ。
余りの数に疲れ果てたユーリの目に、突如奴ら特有の感情の一切無い虚ろな瞳が飛び込む。 それも、かなりの至近距離、ユーリの顔まで15センチも無い距離まで……!
「万事休す……って奴か?」
「いや〜、そうでもないと思いますけどね」
疲れ果てたユーリの目の前、あと数センチと迫ったA-01が突然青白い閃光と共に消し飛んだ。 時計塔の歯車の幾つかがその閃光に当たってか、真っ黒に焦げ付いている。
……雷か!
その声の主は、深い青色の瞳を迷惑そうに眼鏡越しでユーリへと向ける。 手には、リストカットをしたかのような生々しい傷の治りかけたものが多数見られる。
それ以外に、ユーリがどこかで聞いた覚えがある特徴がコイツには幾つもあった。黒の眼鏡をかけ、黒い足首までのマントを羽織っていて、黒いパフスリーブのシャツに、黒いハイソックス。デニムのハーフパンツを履いているそして黒いスニーカー。この黒一色と、今見せた能力。
まさかとは思うが、
「お前、あの碧亜 空とか言う奴か?」
「……? そうですが、何か? それより、自殺しに来た私の邪魔をするの、止めてくれません? 目の前で死に急ぐ人を見たりなんかしたら、助けたくなっちゃうじゃないですか」
……。
「だったら自殺なんてするなよ」
「そんな事を話してる暇は無い、あいつ等が来る。私が時間を稼ぐから、君の目的は……あの黒い歯車でしょ? 早くとって逃げな、私が生きているうちにね」
空は軽く微笑みながらそれへと手の平を向ける。 すると、無数の巨大な雹が当たりに降り注ぎ、あっと言う間にA-01の群れを全滅させた。 中にはまだ首だけで動いているものもあるが、こうなってしまえばたいした害は無い。
だが、その雹が降り終わった直後、異変が起こった。
塔が……!
「崩れるぞ、あんたも逃げろ! 歯車の回収は後回しになりそうだな……」
「私は逃げませんよ、元々自殺しに来たつもりだったしので」
そんな言葉を吐く空の腕を、ユーリは有無を言わさず握って塔からそのまま脱出した。
だがA-01との戦闘ででた疲れがあるのに無理にそんなかっこいい事をしようとした所為なのか、着地に失敗しかけて危うく背骨を折りかけた。
ユーリは今しがた起こった出来事に苦笑いしか出来ず、
「やっぱり疲れている状態であの高さの塔から人一人抱えて脱出するのは無茶かな……。あ゛ー……足いてぇ。ついでに腰もいてぇな、早くアジト戻って寝るか」
塔から飛び降りる際にショックで気絶したのだろう空を抱えたまま村の中央広場へと走った。