ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 能力者Lvゼロ= “無能力者” ( No.88 )
- 日時: 2010/11/25 21:59
- 名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: xiz6dVQF)
どれだけ絶望しようとも、どれだけ現実に立ち向かおうとも、どれだけたくさんのヒトを救おうとも、何を努力しようとも、ヒトはその人生の何気ない行動一つで他の人間を殺している。
そう、ヒトは殺さずには生きていけない生き物なのだ。 ヒトは人を殺す。 ヒトの歴史は殺しの歴史であり、要人の殺害が歴史を影から動かした。
全ての殺害において、ヒトは絶対絡むものであり、それは疑いようのない事実だ。
幸せな人間は、全体の三分の一。 その一の人間は、三分の二の人間の不幸の元に幸福として成り立っている。
これも、疑いようのない事実だ。
「真実は時に見方に働くが、大概は不都合なものだぞシグマ。 時もまた逆転不可な物であり、自分の都合で戻す事などできるものではない。死すが良い、そのふざけた幻想と共に葬り去ってやろう……!」
株式会社クレイクロア、ビル屋上にてシグマを追い詰めた者が腰から抜いた刀を手の中で自由自在に操っていた。
彼女は、クラウンとまったく同じ容姿を持ち、まったく同じ名を持ち、まったく同じ能力を持つ。 まったく同じにして正反対、正反対にしてまったく同じ存在だ。
彼女の言葉に、シグマは冷笑する。 まるで、自分に逆らう事など哀れとしか言いようがないとでも言うかのように。
自分の力を誇示せずとも、強者には相手の強さくらい簡単に分かる。
そう、
「無茶をするなクラウン、寿命が縮むぞ……? 俺の金の砂時計は知っていよう、何故俺に挑む? 死は確定している事くらい分かるだろう?」
シグマの方が、クラウンよりも若干強い。
梃子摺るだろうが、今は確実にシグマが勝った能力と、身体能力を持っている。 シグマからしてみれば相手を殺すことなど至極簡単だ。 殺してしまうのであれば一瞬で片が付く。
だが、今現在の目標はクラウンの捕獲。 殺せないのだ。
「あ゛ー……殺せないのはキライでね、俺は手加減せずに貴様を潰すぞ? 精々頑張って持ちこたえてくれたまえ」
その言葉の直後、シグマの笑い声と共に肉の裂けるような嫌な音が屋上に響く。
——勝負は一瞬で終わった。
負けたのは、右胸に深々と刀の突き刺さった……挑戦者。
もちろんの事、シグマは砂時計の発動などしていない。だが、能力は発動していた。
金の砂時計以外の能力を……!
「クラウン、君がもう一方のクラウンとのテレパシーが出来無いようだから教えてあげよう。 俺の能力は、金の砂時計ではない。 もちろん、それの擬似能力ではあるが、少なくとも時間は不可逆だ。 故に、俺の能力はこう称される。 『フルリセット』とな。つまり、俺には貴様の攻撃が届かぬ上に、貴様が死んでも生き返らせられる。 ただ、精神的ダメージは凄まじいし、戻すのだから元々無かった事にはできない。 廃人にならない程度に戻すのは骨が折れる、死んでいなくて助かった」
その能力のネタ晴らしをシグマは極あっさりと答え、男の姿に変化したクラウンを引きずると、ビルの中へと運び込んだ。 その後、冷凍室へ持ち込まれ、極秘保管されたと言う。