ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 能力者Lvゼロ= “無能力者”      ( No.90 )
日時: 2010/11/28 20:16
名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: xiz6dVQF)

時計塔の崩壊と共に飛び降りたユーリは、歯車の探索を後回しにして村の中央広場へと向っていた。
途中、村だった所を横切ったがそこは既に村などとは呼べそうに無かった。 村だった所、とでも言うべきだろうか。
そこに民家の立っていた痕跡は残っているものの、殆ど焼け野原に等しい状態で更には村人の死体の山が幾つもそこらに点在ている。
もっと分かりやすく例えるのであれば戦後の日本の広島か長崎と言った所だろうが、これは爆弾ではない。 人為的なことには変わりないが、火薬など一切使用されずこの有様だ。 能力者は危険すぎる、政府が排除しようとするのも分からなくは無い。
だが、能力者とて人間である事に代わりは無い。 実際は手を出さなければ能力者が全体で固まって凡人に猛威を振るうことなど無かっただろう。 そしてそのことを政府が後悔したとしても遅い。 
凡人と能力者の戦争はもう始まっているのだから。

「改めて見るとヒッデー事になってるな……」

思わずユーリの口からその様な言葉が漏れる。
だが、大体の能力者はその様な事は思わない。 ユーリが甘い奴だと言う事なのだろうか?
実際は、それが当たり前の反応なのだろう、

「ああ、改めて見ると能力者と凡人は水と油だ。 馴染めない存在だが、馴染まずに互いに手を出さねばこのようなことにはなっているまい。さて、ユーリ。鳳の元へ戻るぞ、歯車の回収は別の処理班に任せる」

ユーリは、突如背後から現れた童子に驚きながら、

「ボス、何でここに居るんですか? 危険ですよ !? 」

ボスである童子の避難を促す。
そりゃそうだ、栄王旅団のメンバー二万人以上を二十代の若さで、更にはたった二日間で纏め上げ、今なおこれ以上にボスに相応しいボスは居ないと断言できる程の人材だ。 こんな敵地の真っ只中に出て行くのは、その手足である能力者で十分でなければいけない。
故に、

「速く避難していてください、貴方は司令室に居て指令を出して頂くだけでいい人だ! ここで死んだら全ての計画と能力者は個々で動いてしまいます!」

「ユーリ、普通に喋ってくれて構わない。 俺だってもう役目を終えた人間だ、長々とこの世に居ても無駄な死の上に立って生きるだけだからな。 ぶっちゃけて言うと死んでもいい。 計画さえ実行できれば俺が死んでも殆ど支障は出ない、実質栄王の勝利で終わらせられる、お前らの手を血でこれ以上汚させなくてすむ。 それにお前にだって部下が居るのにお前と鳳だけで来ただろ、それと同じだ。 目令だけ下すのは俺の性に合わない、自分も動かないとな」

ユーリの意見を真っ向から受けて立ち、何食わぬ顔で中心広場のヘリへと先導する。 ボスとしての資質は他から見ればとんでもないものだが、本人からしてみれば大したことがないのだろうか?
途中、戦闘中の鳳たちと遭遇したが、鳳は無茶をしたのか、傷が一切無くとも、元々は白に近かった服が紅く染まっている。 返り血を受ける事がない背中まで紅く染まり、それで居て六箇所にサイコロの六の目を立てに二列にしたような形だ、やはり一度暴走している。
ユーリは沈んだ表彰で気絶した空をヘリに乗せ、

「童子さん、この人を保護しても大丈夫ですか?」

「構わない、仲間は多いほうがいい。 俺はあの抗争を鎮めて来る、しばらくここで待ってろ」

童子は空の保護を許可した上で仲間の援護へと向った。 
援護へ向う途中、童子の紅い瞳が、青く変化する。 噂によれば、童子が魔神からもらったものだというが、真偽は定かではない。
既に無理を続けていた鳳と、シェリー、その他をヘリの方へ向わせると、それは起こった。
真っ青な炎が火柱を上げて周囲を焼き尽くしたのだ。