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Re: Gray Wolf ( No.10 )
日時: 2010/11/06 13:27
名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)

第  6  話


             ヴォルドス・ドライクム



持っていた斧はかなりの巨大さだ。
その重量感は大人一人分より少し小さい岩を斧の形にしたようなものだ。
それを平然と振り回す人間も以上だが、その一撃を片手で受け止める人間も異端である。



ユーリは受け止めた斧を持ち主ごと弾き飛ばす。
刀の鞘を裏手に持った左手を前へ出し身体の姿勢を少し低くする。
後ろに下げた右の拳に力を入れ、身体の向きを右向けにし、鋭い目つきで睨み付ける。

「ほう。 私の一撃を受け止めるどころか弾き返すとは‥‥‥。 中々やるものだな」
ユーリはその台詞の返事か、声に出して笑ってみせる。
「だが‥‥‥今のがフルパワーでないことは小僧も分かっているはず。 その余裕の表情、いつまで続く?」
その通りだ。
あの一撃は大斧を軽々と振り回す筋肉の持ち主が放つ物ではなかった。
それをいくら片手で防ごうと、全力で振ればたとえユーリでも吹き飛ぶのは間違いない。
ユーリは改めて鋭い目つきで睨み付け始めると、一つ間をおいて駆け出す。


地面を強く踏みしめ、蹴り飛ばし、跳躍し、ユーリは左の拳を突き出す。
それを右に避けられ、ユーリは地面から放した右の足を体ごと振り回す。
男は右の腕で押さえ、それを前へ突き出してユーリの身体を吹き飛ばした。


彼は右の手を地面につけ、吹き飛ぶ自分の身体を止め、支えた。
浮いた両足を地面に立ち上がり、鞘の状態で薙ぎ払い、炎牙斬を放つ。
切れ味を持つ三日月の赤い炎は男の下へと直進する。
だが斧を振り下ろし、三日月を真っ二つに割る。
火花が舞い、二つに分かれた炎は虚空へ消え去り、ユーリは舌打ちを見せる。

今度は男から攻撃の態勢で突っ込みだし、ユーリも前へ走り出す。
まだ近づいてもいないのに急にレンガの地面を斬り砕き、そこから大きなかけらを取り出した。
当然ユーリに向かって投げつけるだろう。

ユーリは地面に飛び込む様に跳躍し、腕力で前方へ倒立回転して飛ぶ。
その凄まじい跳躍力は読み通り飛んできた岩より上方へすり抜け、そのまま男に向かって飛び続ける。
空中で前かがみに体勢を戻したユーリは剣を構えて巨漢に斬り込んだ。
だが、腰の位置に斧を低くした男は振り上げ、ユーリの一撃を受け止める。
それどころかユーリよりも勢いのあったそれで、彼の身体を上空へと打ち上げた。


かなりのスピードでユーリは吹き飛ばされ、その方向にあった建物に右の手で支え、ずるずると落ちていく。
あまりの勢いに手は痺れたが、それに傷む表情は出さず、抜刀する。
「なかなかやんな。 丸腰の娘にそんな大げさなもん使うからそれほど強くないと思ってたぜ」
「貴様も若き身でありながら良くこのわしと戦った。 だが次は容赦せぬぞ‥‥‥」
崩れたオールバックの白髪が目に掛かり、それを避けながら男は笑う。

だがその時空一面に響き渡る男の声が聞こえた。
その方角を見ると軍と思しき者達が機関銃を構えてこちらへやってくる。
それに舌打ちした男はポケットから小型の機械を取り出し、いじくった後、後方にあった建物に逃げ込んだ。


斧を使ってよじ登り、上からユーリ、シエラ、軍人を見下ろして高笑いした。
それにタイミングよく、漆黒のヘリコプターがやってきたがそれはユーリたちに対するものではない。
男の頭上へと停止し、開いた扉から太い縄のはしごが下りてきた。
それにしっかりつかまってユーリに振り向くと、低い声を上げて言う。


「小僧!!!! よくこのわしと対等に立ち回りを演じた!!! 次に会う時に決着を付けるぞ!!!!! わしの名はヴォルドス・ドライクム!!!! 貴様の名を言ってみろ!!」



「ユーリ、ユーリ・ディライバルだ!!!!」

ユーリは返事に自分の名を叫び、去っていくヘリを静かに見送った。






     ヴォルドス


          ・

           ドライクム



                    終