ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Gray Wolf ( No.11 )
- 日時: 2010/11/06 13:32
- 名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
第 7 話
お 願 い
一安心した後にユーリの名を叫ぼうとしたがそれは叶わなかった。
兵士達がシエラを取り囲み、一人が彼女の腕を掴んで連れて行こうとする。
「少女を一人保護!! 避難所へ連れて行きます!!」
更にもう一人の兵士が胸についていた通信機に口を当、シエラを引く力が増す。
少し抵抗するが、仕方の無いことだと思い、力を抜き、連れて行かれる時だった————
「‥‥ああ。 軍人さん、いいよ。 そいつ俺が連れてくわ。 知り合いなんで」
ユーリが後姿で顔を半分見せながら言うと、兵士たちはシエラを放す。
敬礼をしていずこかへ去り、ユーリも軽く手を頭に当てて敬礼の真似をした。
「ユーリ‥‥‥」
まさかここまで偶然が重なるとは思わなかった。
この前のバルスの件といい、今回の事件といい、さまざまな事件でユーリが登場している。
否、ユーリはいろんな事件を軍の頼みで解決しているわけなのだから、もしかしたら自分がただ事件に巻き込まれやすいだけなのかもしれない。
ユーリはシエラの両肩を両手で掴み、自分の目の前に脳天を見せる。
そして大きな溜息を一つついていった言葉は「良かった‥‥‥」
彼は顔を上げ、シエラを見つめる。
一瞬赤くなりかけたが、それは喜んでいる顔でもなく、からかっている様な顔でもなく、ただ心配している、歪んだ顔だった。
それを知るとシエラも深刻そうに眉を八の字にしてユーリを見つめた。
「ごめん…なさい‥‥‥」
思わず出てきてしまった言葉。
ユーリを心配させてしまったからなのか、その言葉が脳で考えるより先に口に出したのだ。
流石にユーリも、この言葉ばかりは変に聞こえて、膨らませた口から空気を出す。
「何でシエラが謝んだよ」
既に日が暮れ、赤い日が遠くのビルに掛かっている。
その夕焼けに照らされている男女二人はまるで青春ドラマの恋人のよう————
そんな事をいやらしい顔で笑うユーリにシエラが声をかける。
ユーリはバレないよう即座に真面目な顔になってシエラを見た。
何故か急に真剣な顔になって自分を見つめるユーリに少し驚いたが、直ぐに口を開く。
「あの‥‥‥赤い本のことなんだけど‥‥‥」
「ああ! あれね! やっぱシエラが持ってたかー」
ユーリは寝癖みたいにぼさぼさな髪を更にぼさぼさに撫でまくる。
だが、次の言葉でユーリは言葉を完全に失った。
「召喚術っていうの…使えたんだけど‥‥‥」
———————それから話した。
妙なスーツに襲われたこと。
たまたま持っていた召喚術の本を参考にして陣を描いてみたこと。
そして、それが使えたこと。
ユーリは依然として絶句している。
口を開きっぱなし、進めていた足を止め、狐につままれた風な顔を見せた。
その態度はまさに馬耳東風。
無理も無い。 魔術は陣を完成するほどの技術で出来るほど簡単ではないのだ。
魔術というのは覇気と呼ばれる全ての動物が持つエネルギーなのだ。
一般人は皆平均的に能力が弱く、もとから膨大な覇気をもって生まれる個体は極稀。
一般人程度の覇気では魔術は使えず、使うためには相当な量の気を要する。
更には魔方陣に描かれた流れを全て支配できるほどのコントロールも必要とされるのだ。
中でも召喚術は最もコントロールの難しい分野で、ちょっと読んだ位で使えるほどではない。
(繊細な気質が出来るようにさせたのかな‥‥‥? それ以前に生まれつき覇気が強かったのかな‥‥‥?)
ユーリは絶望という名の溜息をついて俯く。
「んじゃ、取りあえずそれ返して」
と、ユーリは手を出してシエラの持つ召喚術についての本を取ろうとする。
だが、シエラは反射的に本を持つ手を引き、とらせまいとする。
え、とユーリが疑問の言葉を出すとシエラが口を開く。
「もう少しだけ…使わせてもらってもいい‥‥‥?」
ジッとユーリを見つめ、困惑させる。
女に弱かったユーリは当然承諾せざるを得ないわけだが、まったく納得できなかった。
少しブルーな気持ちで、夕陽の道を歩いていく。
お 願 い
終