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Re: Gray Wolf 第2章 更新が再開しやした。 ( No.111 )
日時: 2011/03/05 10:09
名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
参照: 皆久しぶり!!

   第
         
   3
             ギリギリセーフ
   5

   話


「お前は、俺が鬼神九刀流と初めて口にした時、挙動不審だった」
巻き上がる煙を遠くから見ていた剣士、ルリはそう言った。
左手を上げ、前に出し、手の平を開く。
「何かこの流派について知っているようだが、知っているだけで対応できていない」
——————まあたかが剣一本で此処まで互角とは褒めてやるがな
フッと微笑し、左手のフィンガーレスグローブ、つまりは指の露出した手袋に刻まれた紋章を輝かせ、ビルに突き刺さった鎌も、それに共鳴するようにもう一つあった紋章を輝かせた。

そして、まるで何かに操られるが如く、それは回転しながら浮遊し、移動し、最終的にその柄が彼の手中に納まった。
受け取ったそれを地面に向かって振り、コンクリート製のそれは深く切り裂かれた。
スパンという、擬声語では表しきれないほどの鋭い音を立てて。
「三つの顔、三対の腕、三対の足。 時には攻防一体に、時には堅く守り、時には、激しい猛攻を。 鬼の神が如く怒涛に、敵を容赦なく斬る。 それが、」
低く、しかし大きく、彼は言いながら矛槍刀を持ったその右手を上げる。

「鬼神九刀流」

ヒュンッと渾身の力を込め、その刀を投げた。
流石の貫通力に未だに巻き上がった煙が刀を中心に大きな穴を開けた。
そして、その中を突き抜け、彼に——————



何も起こらない。
あの矛槍刀の威力なら、ビルの側面で爆発が起きるはずなのに、何も起こらない。
「妙な話はもう終わりかい?」
煙は徐々に晴れ、終にユーリの姿が見える。
胸元に突き刺さりかけた矛を、左手で受け止めて。
「ふう〜。 後0,1秒応急処置が遅れてたら完っ全に貫通してたね。 ギリギリセーフ。 いくら突きの威力が高くても、柄にまでその影響は出ないからなあ」
——————応急処置?
見れば彼の右肩には脇までかけて包帯が巻かれている。
純白のそれは、傷口を沿ったように少し赤く染まってはいるが。
——————まさか、それをあの短時間でやり遂げたのか‥‥‥!?
とはいってもそれしかない。
乱舞奥義、身傷膨大を受けるまで巻いてはいなかったのだから。
きっと腰の右側についているポーチから取り出したのだろうが、手早い作業だ。
彼は右手の指だけが出た手袋に刻まれた左手のと同じ紋章を光らせ、矛槍刀もまた、二つあるうちの一つの陣を光らせて、ユーリの手の平から擦り抜けた。
そして、今度はルリの許に行かず、彼の近くにあった地面に突き刺さった。
左手の絶傷刀も、ルリに投げられ、地面へ突き刺さる。
最も、余りの切れ味に地面を滑るようにして突き刺さったのだが。
次に今度は両の陣を輝かせ、それに共鳴して光った弓と脇差が共に独りでに動いて彼の手中に収まる。
右手に持つ小刀、「薄鋭刀」は柄と刃の間、はばきに施された紋章を光らせ、同時に振ったそれは空を切ったが、その瞬間に薄く平たい水流がユーリの眼前まで飛んでくる。
反射的に右にかわし、その先を目で追うと、花壇の草花が無残にもプッツン、と切れている。

高圧水流。

そう読んだユーリはルリに焦点を合わせ戻す。
しかし、その瞬間に多数の薄い水鉄砲のような塊がユーリ目掛けて襲う。
これも魔術奥義———————?
そう思いつつも紙一重でかわし続け、確実に攻撃を避ける。
攻撃の嵐が止んだと思えば今度は木の棒が飛んでいた。
否、それは木の棒ではなく、矢。 何処から飛んできたかと思えば当然ルリ。
あの八本の刀剣と同じく、何もない場所から取り出したのだろう。 地面に数十本突き刺し、一本一本小刀を握っていない人差し指と親指で摘む様に抜き取ってそれを左手の弓で撃っている。
最も、弓の形をした刀だが。
今度はそれを一本、二本と避け続け、次の狙撃に備える。
だが、今まで短い間隔で放っていた攻撃が急に止む。
それもその筈。 ルリは弓を下に向け、弧の弓幹に右手を添え、唱える。

「魔術奥義・爆弓狙撃」
添えた右手、ではなく添えられた魔方陣から赤い光の弾が出てきた。
それは徐々に弦と一緒に引いていく右手と共に伸び始め、終には矢も同然の形へ変貌する。
ユーリは盛大に自慢できるほど洞察力は高い。 故に、名前だけで大体の事は理解できる。
空気を貫く音が聞こえたと同時に、しゃがむ様に低く構える。
そして、3秒前までユーリがいた場所は広範囲にわたって爆発し、既に彼は居ず。
爆風によって煙が巻き上げられ、その煙を体で突き抜け、視界を得る。
だが、すぐさま彼の後ろに殺気を感じるのが分かった。
後ろに振り向いた瞬間にもう目の前に男はいた。

右手に鎌を持って。

左から右へ振る構えを取って。

いつの間になど言ってられない。 この距離と刃が当たるまでの最長時間を考えれば、確実に真っ二つになる事間違いなし。
付け加えて、この振り向き様の体勢は、どう考えても即座の移動ができない。
「くんん‥‥‥ぬぉおおお!!!!」
どうせ刀諸共自分も真っ二つにされると言うのに、最後の足掻きとして、彼はその直刀を防御へまわす。
段々耳に耳鳴りのような高く鋭い音が伝わってくる。

鉄の棒から湾曲して出てきた刃は全てを切り裂かんとする切れ味。



その刃はユーリの直刀を———————————








折らなかった。





     ギリギリセーフ          終