ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Gray Wolf 第2章 更新が再開しやした。 ( No.115 )
- 日時: 2011/03/10 22:53
- 名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
- 参照: 皆久しぶり!!
第
3 7 3 日 後
話
———————止めろ
止めろ、来るな、来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな
来ないでくれ
もう—————————
「来るなぁ!!!!!!!!!!!」
ベッドからユーリは飛び起きる。
朝の筈だが、日差しが目に入らない。
当然であろう。 目の前にシエラがいるのだから。
勿論比喩ではなく、10cmもない距離にある。
無表情のまま、動く様子がないが、段々顔が赤く染まり、あわあわと口を開いている。
「きゃああああああああああああ!!!」
「ご、ごめんね。 突然大きな声出しちゃって。 びっくりしちゃったから‥‥‥」
シエラが未だに赤いその顔を隠すようにそっぽを向き、謝る。
「いや、別にいいけどよ」
ベッドに座り続けるユーリもその謝罪を軽く受け止めて許す。
だが、心中では、
(あれってもう少し近づけばキスできたよな‥‥‥。 ちっ、惜しいな)
などと如何わしいにも程があることを考えていた。
「でも何でうなされてたの? 汗びっしょりだし」
シエラに言われて気づく。
額にも、頬にも、タンクトップの服の中にも、汗に塗れており、びしょびしょの状態だった。
ユーリは彼女の指摘に、顔を俯けて、低い声で言う。
「聞きたいか?」
「え? 別に、そんな無理していう事じゃないよ。 ちょっと気になっただけだったし」
「いや、聞いとけ聞いとけ。 こんな事、誰かにぶちまけねえと」
気になっているのに聞くのを躊躇うシエラをユーリは教えようとする。
一呼吸置いて、ユーリはゆっくり口を動かし始めた。
「白い砂浜、夕焼けが水平線に沈みかけた赤い海。 そこで俺は、」
ビキニ姿の美女百人に追いかけられていた
思わず疑問の声を出すシエラ。
まあ、思っても思わなくてもこれは疑問しか出ないのだが。
「そこまでは良いんだ。 ただ、その娘達の顔や体付きが変わり始めて、筋肉の塊みたいなマッチョに一人残らず変わって、俺を追いかけ続けるんだ」
‥‥‥
「あんな悪夢があるもんか‥‥‥!! 多分、いや絶対人生最大の悪夢だ‥‥‥」
「そ、そうなんだ‥‥‥」
(もっと暗い話しかと思ってたけど‥‥‥)
ユーリは頭を抱え、今にも泣きそうな顔で俯く。
だが、先程から左手に感じる温もりに気づいて、自分のそれを見る。
そこには、しっかり握っているシエラの腕があった。
間違いない。 彼女の頭から、首に掛け、肩、二の腕、肘と辿り、その先の物はユーリの腕を握っている。
ユーリの目線によって自分のしてる事に気付いたシエラはまたもや赤面し、何も言えずただ恥ずかしさのあまり冷や汗を出している。
しかしユーリは彼女の手を放さず、右手を添えて包む。
「ちゃんと看ててくれたんだな。 ありがとな」
「‥‥‥‥‥‥」
その時、殺気を感じた。
この殺気は、言うなれば、妬み、嫉妬の炎の如きオーラを纏った———————
「‥‥‥何それ」
レフィ、だった。
と、その隣に彼女を宥めようとするレン。
ユーリ達を見る彼の目は、助けを求める目であった。
- Re: Gray Wolf 第2章 更新が再開しやした。 ( No.116 )
- 日時: 2011/03/29 12:21
- 名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
- 参照: 皆久しぶり!!
この前の騒動から3日経ち、怪我を負ったユーリとレン。
レンは肋骨一本ひびが入った感覚がしたが、あまりの衝撃にどうやら他の骨にも影響が出たらしい。
とりあえず、2週間以上は安静が必要ではあるが、そのレンに今のレフィを抑えつけるのは酷な話だ。
ユーリもまた、切り傷も深く、致命傷でなかったものの、出血も酷く、放って置けば命に関わる程の物だった。
勿論それも一命を取り留め、無事ではあった。
そして、シエラやレフィ、そして一応歩きだけなら出来るレンは、合鍵を借り、ユーリの家に見舞いに来ている。
それは良いのだが————————
「来ねえな。 連絡」
「うん‥‥‥」
ユーリは部屋の隅にある電話を見つめて言い、シエラが同調する。
————————
南区中心街サウスセントラルへ護送され、取調べを受けたユーリ。
と言っても、その手の事は日常茶飯事であり、いつも諸注意だけで釈放されている。
それは、ユーリのやっている事はほぼ正当防衛というか、公共的に利益なので、それについては軍も咎められない。
キメラがいるこの世で、あまり厳しく銃刀法を定める事もできない。
また、ユーリの所業については、上層部は懐広く受け入れているため、後ろ盾があるわけである。
「‥‥‥全く」
腕組みをして、取調室に入るレイン。
彼の視界の真ん中には、チョコパフェはのほほんと食べているユーリ。 既に病院での治療は終わらせている。
2回目の取調べで、「極東の国じゃ取調べに『カツ丼』を出すのが常識なんだよ!!」と冗談混じりで言った所、まだ彼についてよく知らない新人が『Katsudon』とやらの代わりにパフェを出してしまったらしい。
以来、彼が取調べを受ける際はギャグという事でパフェを出している。
———————南方軍(ウチ)は本当に大丈夫か?
毎度の事ながら、心配してしまう。
ユーリの向かい側、机越しにある椅子に座り、向き合う。
「さて、君と戦っていた彼だけど‥‥‥」
「ああ、そうそう。 あいつどうしたんだ?」
スプーンをレインに向け、口元にクリームをつけているのも気にせず言う。
「‥‥‥釈放された」
「何ぃ!?」
変わらない口調で普通のように言ったレインの言葉に、ユーリは驚く。
それから口元のクリームを舌で舐めとって、彼の話を聞く。
「どうやら彼の追いかけた者達はマフィアらしい。 どうやら、裏切った仲間を殺そうとしたところを止めたそうだが、そしたら今度は彼の方を襲ったそうだ」
ふーん、といまいち納得が難しい様にユーリは返事をする。
しかし、同時にあることに思い至った。
———————すると、シエラ達は?
「それと、シエラさんとロートスシティ担当のガーディアンだが‥‥‥」
丁度良いタイミングでその話になるとは思わなかったのか、ユーリは思わず声が出そうになる。
「一応追いかけているうちに発砲された様だけど、大丈夫、上手く避けて当たらなかったらしい」
発砲された、と言う言葉に酷く敏感に反応したユーリの様子を見て、大丈夫と付け加える。
「しかし、どうやら逃がされてしまったようだ。 今後の捜索は我々が担当しよう」
軽く握り締めた拳を胸の中心に当て、自信を持った口調で答える。
———————
「————————とか何とか言ってやがったくせに」
ハァ、と溜息を一つ。
「私がシエラに助けられた、っていうのも納得できませんし‥‥‥」
低い声で呟きながら落ち込むレフィ。
追いかける最中にシエラに追い越されたり、銃から発砲される瞬間に抱えられて建物の陰まで一瞬で連れて行かれたりしたあの時の光景が蘇る。
正式で本格的な訓練を積んだガーディアンが、一般人に護られたのでは世話ないだろう。
「え? そんなに運動神経あったの? 知らなかった‥‥‥」
レンが驚き、その言葉を口にする。
シエラがその回答に困ると、ユーリがその代弁をする。
「ああ、シエラはな、護身術を一応会得してんだよ」
俺直伝のな、とつけたし、微笑を浮かべる。
その最後の言葉にだけ耳が反応したレフィは、段々彼の話に耳を傾け始める。
「シエラは小さい頃から俺と一緒に行動してたし、俺が一度この街出て、戻ってきた15歳の時から17までの2年間、頼まれて教えてやったんだよ」
だからシエラは運動神経がよく、体育は得意教科でもある。
それに、誕生日の時に襲われたキメラから長時間逃げ続けられたのもそれ故。
自分の隣にいる人が段々赤い炎に包まれ始めるのを感じたのはレンだけである。
「シエラ。 あそこの左の本棚の‥‥‥上から2番目、左から4番目の赤い背表紙の本、取ってくれないか?」
「え、あ、うん」
ユーリが指差した方向を辿り、見つめながらその場所に行く。
彼の本棚は色々な本が積まれている。 魔術学、漫画、漫画雑誌、好きな俳優や、グラビアアイドルの写真集。
シエラはその中から指示された通りの本を取り、また戻って行く。
そして、それをユーリに渡す。
「何だそれ?」
「‥‥‥キシンキュウトウリュウ、それはもしかしてあの鬼神九刀流かと思ってな」
覗き込むレンの質問には直接的に答えず、パラパラとページをめくる。
その本の題名には「Yaduki Asana」と書かれていた。
3
日 後
終