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- Re: Gray Wolf 第2章 更新が再開しやした。 ( No.117 )
- 日時: 2011/03/13 15:51
- 名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
- 参照: 皆久しぶり!!
「キシンキュウトウリュウ?」
言葉の意味が分からず、シエラは片言のようにユーリの言葉を繰り返す。
「なんだそりゃ」
続いて、レン。 肩を竦めて本を捲り続けるユーリを見る。
そして、彼はあるページで捲る動作を止め、微笑を浮かべる。
「あった」
話 8 3 第
鬼 神 九 刀 流
の の の の れ
そこにはそう書いてある。
「あ、阿修羅の九本の刀?」
ヴェルゲンズ語で書いてあったそれをそのままシエラは読み上げた。
余りに物騒な名前に、少し言うのを躊躇ったが。
だが、ユーリの答えは少し違う。
「意味はそうだが‥‥‥正確には『阿修羅九刀』って呼ばれてる」
「ア、アシュラキュウトウ?」
またもや訳の分からない発音で訳の分からない単語を言われ、更に困惑した。
それを余所に置き、ユーリは更に補足する。
「またの名を『鬼神九刀』とも言うけどな」
シエラもレフィも訳が分からず、混乱ともいえる表情を浮かべている。
レンは何か引っ掛かるのか、慌てる様子も無くただ落ち着いている。
「鬼神九刀流はこの国の言葉で『鬼の神の九の刀の流れ』っていう。 まあ、これは日天でいう剣術流儀だよ」
「剣術流儀、ですか?」
レフィが繰り返して言う事に特に意味は無い。
が、ユーリは「そ」と親指を立てた。
日天とは東の国の中でも、文化の個性が強い国の一つ。
国土面積は他の国に比べて非常に小さい島国だが、世界規模で言えば技術的にかなり発達している。
料理をはじめ、様々な観点の文化において世界中からの人気は高い。
あまり聞かないのだが、ユーリの持つ直刀、『狼将刃』も日天の技術で作られた物だという。
日天は1000年も前から『〜流』という剣術流儀が多く存在し、『鬼神九刀流』もその一つ。
「結構日天に詳しいんだな。 まさか日天語も知ってたりするのか?」
レンが素直な驚きの感想を述べる。
腕組みしてて素直に言うのは少しおかしいが。
だがそうならユーリの「狼将刃」や「炎牙斬」と言う名前にも納得がいく。
そして期待通りの答えと、少しの補足をする。
「ん、まあな。 魔術について調べる内に賢者達の故郷を訪れて、現地調査しようと思ってな。 退魔秘術だって、わざわざ中国まで行ったんだぜ。 日天だって—————」
そこでユーリは一呼吸置く。
焦らす様に、ゆっくりと。
「空間術を調べる過程で、な」
空間術——————
初代行使者、つまり伝えた賢者は『ヤヅキ・アサナ』
空間術は、生体反応の無い物体、生物でないものを閉次元に閉じ込めたり、操る事ができる術。
ここまでが空間術。
ユーリはどんなに勉強が嫌いでも、魔術だけは興味を持っていた。
そこで彼は、現地調査を行っている内に、あることが判明したのだった。
日天歴史上で一時最強の剣士と呼ばれた者である。
これの何が魔術に関係あるのかといえば、それは名前。
『朝奈 夜月』
日天はフルネームを苗字・下の名の順番で呼ぶ。
だから外国で言えば『夜月 朝奈』、『ヤヅキ・アサナ』
しかも、その者の使う剣技は『鬼神九刀流』と呼ばれていた。
この点を全て線として繋げばこうであった。
朝奈夜月は賢者にして最強を称した剣士。
夜月は姿を暗ましたらしく、消息は不明となったらしい。
年表で言えば、賢者ヤヅキ・アサナが登場したのはその直後。
歴史学者も同一人物と見て間違いないという。
「うーん。 まあ、大体は分かったけどよ。 それがどうしたって話だよな」
必死に考え込んだレンはとうとうその答えをだす。
ユーリははあ、と溜息をつき、呆れた顔で彼を見つめた。
「お前なぁ‥‥‥。 あいつが言ってたろ、『鬼神九刀流』って。 もしあいつの使うのがそれなら、鬼神九刀流は空間術の応用編じゃねえかってな」
「は?」
レンは声を上げて解せず、という顔を浮かべている。
シエラとレフィも同じだった。
「俺に言わせりゃあ、鬼神九刀流自体が空間術の研究成果だっつー事だよ」
三人の理解を待たず、ユーリは右のページを一枚捲る。
その見開きには、ルリが使っていたあの刀が絵として描かれていた。
阿修羅九刀にはそれぞれに固有利点がある。
それは一つに絞られて作られた物。
まずは、
崩鋸刀
固有利点は「重さ」
相当な腕力が無ければ持ち上げられないが、それから出る破壊力は凄まじい。
薄鋭刀
固有利点は「軽さ」
余りに軽く、故に速く、柔軟な斬撃を生み出せる。
だが、軽さ故に攻撃も弾かれ易い。
絶傷刀
固有利点は「切れ味」
その切れ味は比喩を超えて厚いダイヤモンドでも切り裂く程。
それだけに、扱いはかなり難しい。
矛槍刀
固有利点は「貫通力」
同じく、比喩を超えて厚いダイヤモンドを貫き壊す、絶対の矛。
硬純刀
固有利点は「防御力」
盾その物の防御力と、持ち主への防御力が高い、どんなものも受け止める絶対の盾。
なお、絶傷刀と矛槍刀を照らし合わせると、相当なスピードで連続して攻撃を受ければ硬純刀の方が耐え切れないが、そうでないならどんなに攻撃を受けても壊れない。
弓狙刀
固有利点は「射撃範囲」
これによって打たれた矢は100mを超えても勢いを保つ。
夢幻刀
固有利点は「変則性」
氷点下百何度の冷気で小さな氷の刃を無限に作り続ける。
それによって受け太刀もせず、鞭の様な変則性を持つ。
銃連刀
固有利点は「速さ」
放たれた弾丸はライフルを超えたスピードを持つ。
威力もライフル並なので、簡単には防げない。
「と…まあ、こんな感じか」
長々と説明され、大体は分かった。
別に刀の詳細等知らなくても問題は無いが、これからの説明で必要な知識なら、知っておくに越した事は無い。
だが、一つ解せない事があった。
「なぁ、阿修羅九刀って言ったくせになんで八本しかないんだ? それなら阿修羅八刀でもいいんじゃ‥‥‥」
ピンポーン
そんな簡単な音によってレンの言葉は止められる。
少し苛立ちを覚えながらも、ユーリはベッドから降り、刀を手に取った。
「大丈夫? でも、誰だろう‥‥‥」
シエラの声も気にもせず、玄関の扉まで近づいた。
緊張という言葉だけで表せるこの沈黙の状況、ユーリは迷わず扉を引いた。
瞬間、ユーリの首に鋭利を持つ物体、否、刀が飛んできた。
鬼の神の九の刀の流れ
終