ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Gray Wolf ( No.13 )
日時: 2010/11/07 17:04
名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)

     第                  誕

        8               生

           話            日


水色のシーツのベッド。
その上で、白い掛け布団を身体に掛けて横たわるシエラがいる。
カーテンの隙間から差し込んだ光が閉じた瞼へ当たり、目を覚ます。
胴を起き上がらせ、そばに立てかけてあったシューズを履き、奥の壁へと向かう。
そこに掛けてあったカレンダーの第二月曜日である5月3日に丸印を付けた。
4日、5日と日にちを追っていき、金曜日、5月7日に目をやる。
そして浮かべたその笑みは、何かを楽しみに待つようで、鼻歌を歌いながらクローゼットへと向かった。

誕生日が来るのだ———————
シエラの、誕生日が——————



ハイスクールの中等部校舎へと向かい、階段を昇る。
そして、教室の扉を開くと気付いたリンが恒例のスキンシップをしてきた。
「シーエラちゃん!! おはよぉー!!」
「きゃっ! リンちゃんやめてよ‥‥‥」
いつもながらその勢いが強く、リンに見事に振り回される。
クラスの者達はその光景をいつもの事の様に捉えていて、最早日課と化している。


授業中のときも、お昼休みのときも、「誕生日」という単語が頭の中を駆け巡る。
だが、やがて次第にユーリの顔と名前が浮かび、その度に赤くなる。
更にはその赤面した顔をクラスメートに指摘され、耳まで赤くなってしまう。


今年の誕生日は両親が仕事の都合によりどうしても家に居ることができないらしい。
そのため、シエラと妹のアリスで誕生日会を開くこととなった。
が、今回はユーリが居るのだ。
親が居ないのは少し心残りだが、それでもユーリが居るだけで満足に近い。

ユーリは誕生日プレゼントを買ってくれるのだろうかと言う考えが終に頭を支配し、帰り道を別方向に進む。

『誕生日プレゼント? 女の子のなら当然用意してるって!!!』
とユーリが言いそうな気がする。
だが、それは流石に自意識過剰だと赤面しながら考えを否定した。


スイーツショップ「プリズム」——————
それがユーリの家だった。
というより2階と1階が外の階段でつながっているだけで干渉などは無く、1階はそのお店。
2階はそこの店主兼パティシエールの人から譲り受けてもらい、ユーリが一人暮らししている。
シエラは木製の階段を軋む音を聴きながらゆっくり上がる。
扉の前にたどり着き、その直ぐ横につけてあるインターホンのボタンを押す。


だが、出てくる気配も、スピーカーからノイズ交じりの声が聞こえるわけでもない。
留守なのだろうか———————————


諦めて帰ろうとしたが、その先の忙しい足音が聞こえ、モーションを止めた。
まさか、と思ったとおり、その足音の正体はユーリ。
「あれ、シエラ? どうしたんだい?」
「え、あ、あの、実は————————」
訊いてきておいて耳すら貸さずにユーリは素早く鍵を開け、ドアの中の闇へ吸い込まれていく。
そして少し経った後にまたバタバタと足音が近づき、扉が開いた。
「ごめんな! 今すげー忙しい時期でさ、デートならまた今度!!」
「ち、違うよ!!? そうじゃなくて——————」
また言い終わる前に走り去って行った。
階段の方へ歩き、その階段を降りて道の真ん中を駆けているユーリをシエラは呆然と見つめた。




何を期待していたんだろう——————————




心の中で込みあがっていた何かが一気に静まり、シエラはただそこで俯くだけであった。





   誕   
                        生





   日
                        終