ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Gray Wolf ( No.14 )
日時: 2010/11/07 17:09
名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)


 第   9

              5 月 7 日

     話              の

                    不

                    運



とうとう迎えた5月7日。
だが、それにあまり喜びを感じないシエラは教室でクラスメートからの祝福を受けた。
結局今日までユーリとは一切会わず、電話をしても繋がらない。
無論メールをしたところで帰ってくるわけも無い。

自分は何か嫌われているのだろうか、という考えが頭に浮かんできた。
これだけ無視に近い事をされればそう思うだろう。
だが、ユーリに限ってそんな事があるのだろうか?、という考えも同時に浮かぶ。

ユーリは誰もが認める女好き、それなのに女性を無視するなどあるのか。
増してや幼馴染だというのにそんな事があるはずが無い。
だが現に自分は一度もユーリと言葉を交わしていない。


ユーリの気持ちが分からない。
シエラはユーリが何を考えているのか分からず、考え込む。





夜、妹のアリスに連れられ、シエラは大通りへと行く。
アリスはシエラを服屋へと連れて行き、シエラに合う服を選んでいる。
途中シエラの顔を何度か見たが、まったく笑いを見せる様子が無い。
否、確かに服を見せては笑ってはいるのだが、それは心底から笑っている物ではない。

そして選んだのは膝が見えるまで短い、胸より上の部分が露出した薄橙のドレスだった。
帰り道、アリスは何度もシエラに話しかけた。
だが、シエラの元気は戻る気配が無い。
「すごい似合うよ! お姉ちゃん!」
「うん‥‥‥」

「それならユーリさんも喜んでくれるね!」

最後の言葉にだけ、シエラは反応を見せた。
だが、無気力にまた俯く。
「喜ばないよ‥‥‥ユーリは…」


アリスが何か言葉を発しようとしたが、背後に何かを感じる。
振り向くと、人とは思えないほどの巨体。
否、人ですらない。


前にユーリに教えてもらった、多遺伝子生命体。 キメラ。
体毛が茶色く、かなり張った大胸筋、硬い感触がするであろう鬣。
ライオンのような顔つきをしているのに、ゴリラに見える胴体。
周りからは人々の悲鳴が聞こえる。




両親は居ない。

ユーリにも断られた。

更には、自らの命まで危険にさらされる。


生まれて一番の、運の無い誕生日だった。





       5 月 7 日 の 不 運 




                           終