ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Gray Wolf ( No.15 )
日時: 2010/11/07 17:15
名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)



    第

    10         プ レ ゼ ン ト

    話



暗闇の大通りの中をシエラはアリスを引いて必死に駆け抜けた。
後ろからは妙な大型の獣が追いかけてくる。

前屈みの体勢で追いかけており、ちょっとスピードを緩めれば距離は縮まるだろう。
このままではアリスが巻き添えになるだろう。
だが何処に逃げ道があるのか。
ユーリなら迷わず戦い、倒すのかもしれない。
だがそんな戦闘能力も無いシエラに戦う事は無理だ。


————————どうすれば—————


シエラは先に見えた十字路を右折し、そのすぐ傍にあった建物と建物の隙間にアリスを多少乱暴だが身を隠させる。
「ここに隠れてて!!!」
「え‥‥‥ちょっと待ってお姉ちゃん!!!」
その言葉を聞き、シエラはまた走り出した。
当然先程の曲がり角からあの妙な獣が追いかける。
だが幸いにもアリスに気づくことなく、真っ直ぐ進んだ。


非常階段だろうか、金属質の階段が一軒の建物についている。
恐らく10階を祐に超しているであろう。
しかしそんな事など考えている余裕もなかったシエラはすぐにその非常階段を昇る。
ガンガンと金属を叩く音を響かせながらシエラは1階、2階を昇っていった。

巨大なキメラは律儀に階段は昇らず、手すりや床を使ってよじ登っていく。
無論その方が早いが、追いつかれるより先に何とか屋上まで辿り着くことができた。





‥‥‥‥‥‥‥


そこでシエラが悩んだのは、この後のことを考えていなかったことだ。




前には高い位置から見える空、後ろには巨大な化け物。
逃げ場など無い。 あるのは死へ近づく恐怖だけ。
食わんとばかりに巨大な口を開けるその獣はシエラの元へ掛けていく。
咄嗟に走り出したシエラは建物の縁まで走り出した。



自分が今いる場所を忘れて。



気づいたときにはもう遅い。
止まろうとして踏み込もうと前に出した足が縁の段差に引っ掛かり、勢いよく闇の中へ飛び込む。


「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」


空を見上げながら下へ下へ落ちていく。
その叫び声も虚しく、空へ消え去った———————————————













————————————————事はなかった。



月の光に照らされ、黒い影がビルの屋上を高速で伝っている。
そして17階建てのビルへと飛び移り、後姿のキメラの頭上へ跳躍する。
頭を思いっきり踏み潰し、それを使って更に跳躍し、同じく遥下にある地面へと飛び降りた。

落ちていくシエラよりも早く落ちる人影は左腕で彼女を抱え、その左手で持っていた棒のような物から更に棒のような物を取り出す。
その取り出した棒は月明かりによって反射し、発光する、刃だった。
右手で持ったその刃をビルの側面へ振り下ろし、一気に削っている。

勢いは収まっていき、やがて止まる。
最初はあまりに突然の出来事で状況が分からなかったシエラも、徐々に顔を上げる。
地で立っているボサボサな金髪、見たことのある顔つき。
影の主は壁に刺した棒を鉄棒のように使い、逆上がりの勢いで壁に足をつける。
そして棒の正体である刀を引き抜き、壁を蹴って低い位置から地面へ飛び降り、シエラをおろす。

その正体、ユーリはいつものコートとは違う、外套にも似たスーツを着ている。
ユーリはシエラに後姿を見せながら口を開く。
それと同時に巨大な獣が上から飛び降りてきた。
「お待たせ、お姫様。 お迎えにあがりました!」
言い慣れた風な口調で敬語を使い、ユーリは刀を鞘を納める。
獣が走り出すと同時にユーリも駆け出す。

前に突き出した拳を屈んでかわし、上から鉄の装甲がしてあるグローブでアッパーを突き上げる。
流石に効いたのか、怯んで動きを遅くした。
そして腕を掴み、キメラを力一杯に振り回し、投げ飛ばす。
高く宙に浮いた体へ駆け、跳躍し、右足で蹴り飛ばす。
その影響で気絶したのか、ゴミ捨て場へ吹っ飛ばされた獣は動かなくなった。








シエラの家、豪華な食材が並ばれたテーブルがあるリビングでシエラはユーリの話を聞く。
「ええ!! サプライズ!!!?」
「そ、本当はこんなはずじゃなかったんだけどねぇ」
話によるとユーリとアリスが考案した物で、ユーリが今まで顔を合わせなかったのはじっくり誕生日プレゼントを買うためらしい。
そのための休みを作るために、依頼の予約をたくさん受付け、忙しかったのだ。
そしてドレス姿のシエラを後ろからスーツ姿のユーリが抱く————————の筈だった。

思いがけないアクシデント。
彼より先にキメラの方が後ろから接近してしまったらしい。
「あんな通行人(エキストラ)なんて呼んだ覚えが無いんだけどなー」
溜息を混じらせ、ユーリは俯く。

だが、すぐに顔を上げ、シエラの目の前まで顔を迫らせた。
「はいこれ」
という言葉と同時に、ユーリはポケットから赤いリボンに結ばれた箱をシエラに差し出す。
その中をゆっくり開けると、柔らかなクッションにおかれた銀色の腕輪がある。
シエラはそれをジッと見つめる。
その様子を楽しそうに見ていたユーリとアリスは更にクラッカーを取り出し、天井へ打ち上げる。
乾いた音が響き渡り、その音に我を取り戻したシエラに二人は口をそろえて言い放った。





「ハッピーバースデイ!!!!!!」








           プ
           レ
           ゼ
           ン
           ト


                        終