ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Gray Wolf ( No.19 )
日時: 2011/03/05 18:03
名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
参照: 小説 【Gray Wolf】 びみょーに更新中‥‥‥(宣伝マンが


   第
                    V
                    S
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                    ラ
   話



避難所へ一斉に逃げ込んでいく住民とは逆方向にユーリとシエラは走る。
最初は飽きれかえるほどビルが連なっていたというのに、徐々に数を減らしていく。
アスファルトの地面も、今は土のものとなっていた。
自分達と逆方向に走っていた人は少なくなり、やがて零同然となった。


更にその奥へすすむと、また人影が見える。
だがそれは逃げているわけではなく、統一された青を基調とした軍服を着ている者しかいない。

周りにいるのは射撃訓練している者や、銃を柔らかそうな布で拭いている者など。
シエラは自分達の存在が浮いてしまっているのではと恐怖に捉われ、ユーリの背中を壁のようにして隠れていた。



「来たね‥‥‥」
各大隊長に指示を出していたレインは後ろに近づいていたユーリに気がつくと、話を中断して振り向き、体ごと向かい合わせた。
ユーリはああ、と呟き、遥か遠くへ見つめる。
その彼方の向こうには、無数のキメラの大群がこちらへゆっくり歩いてくるのが見えた。
その姿を見つめ、ユーリの見ていた方向へ自分も見ると、レインは言う。
「恐らくまだ200mといったところだろう。 だがこのままでは街に侵攻し、被害が拡大されるだけだ。 だから———————」
「————ここで全員ブッ飛ばせ、ってんだろ?」
図星だったようで、レインはコクリと頷いた。
そして天空へ指を指し、ユーリは疑問に思いながら上を見上げた。
先程から聞こえていた音の正体であろうヘリコプターが地上近くで浮遊している。
レインはその直後にズボンのポケットから一枚の写真を取り出し、ユーリに見せた。
「‥‥‥空中の偵察隊に上から取って、送ってもらった写真だ。 これから見て分かるよう、恐らく2〜300のキメラがいる」
ユーリは不満そうなやる気のない声を漏らし、虎のような二足歩行のキメラを見る。
だが、すぐに真面目な顔でまた本物のキメラの大群を睨み付けた。


数十秒か経った後、レインの胸ポケットから電子音が聞こえる。
それを発する通信機を取り出し、中心の赤いボタンを押した。
「どうした。 何かあったのか」
『‥‥‥‥‥‥‥‥‥!!!!!!』
「なんだ!!? どうした!!!」
レインの言葉を聞きながら、ユーリはまだ大群を見続ける。
その大群が暴れていることに気づき、更にレインと通信機の奥の人物の会話に耳を傾けた。




「——————相手が予想外に強すぎます!!!! このままでは‥‥‥うわ!!? うわああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
通信機を右手に持ちながら、一人の兵士がまたキメラに食われる。

一人の兵士が機関銃から銃弾を一斉放射した。
脅えているのか、手元が狂って照準が固定しない。
どんなに銃弾が当たり、どんなに貫通してもまったく死ぬ様子が見受けられないのだ。 脅えて当然だろう。
100発連射の機関銃を使い、全弾放射したというのにまだ死なない。
次の弾倉を装弾しようとあわててポーチを探るが、その間にキメラの爪が襲い掛かった。

その様子を見て、岩陰で震えてしゃがみ、自分が殺されないことをいのる。
だがそれも虚しく、一匹のキメラがその姿を目にしてしまった。
それに気づいた軍人は脅えてライフルを取り出すが、銃弾など入っていない。
苛立ちながらライフルを投げつけ、見事頭に命中させるがそれで死ぬはずがなかった。
腰を抜かし、腕の力だけでずり下がったが、それよりも早くキメラが近づいてくる。
自分の死を確信し、キメラの振り上げる爪に合わせる様に断末魔の叫び声を上げる。






だが、それは決して死に際にはならなかった。
横から飛び込んできたユーリが右の拳に神経を集中させ、頭を殴りつけた。
その衝撃に耐えられず、思わずキメラは怯む。

その倒れるキメラを見つめ、ユーリは鞘にしまった刀を肩に担ぐ。
後ろにはサーベルを構え、固い表情になるレインまでいた。


「ったく。 接近戦の訓練ぐらいさせとけよ。 死んじまってんじゃねーか」

「そうだね‥‥‥。 これからそうさせるよ。 だが今はそんな時じゃないだろう?」

「はっ! しょうがねえ!! いっちょ仕事しますか!」





                V S

               キ メ ラ





                 終