ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Gray Wolf ( No.25 )
日時: 2011/01/12 22:41
名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
参照: 小説 【Gray Wolf】 びみょーに更新中‥‥‥(宣伝マンが

    第
      1
        6
          話

          殲   滅   戦


既に街の中は無人と化しており、どこを通っても人の声など聞こえない。
小隊だろうか、8人の軍人が銃を構え、ビルによって研ぎ澄まされた風の音しか聞こえない街の中を走っていた。
一人の兵士が建物同士の隙間を見、暗くて見えない事が分かると小隊長に確認の許しをもらおうとする。
「隊長! この裏通りに続く道を確かめてもよろしいでしょうか」
「ん? 確かに暗くて分からないな‥‥‥。 行ってきてくれたまえ」
両手で持っていた銃から右手を放し、手で行くように指示した。

だが行ってみたものの、逃げ遅れた人が隠れたわけでも、キメラがいるわけでもない。
あるのは既に使われていない、蝿に集られたゴミ箱が二つ。
諦めようと思い、表まで背を向けると後ろから爆音が聞こえる。

後ろを振り返った先にはキメラが一匹。

あまりに突然の出来事と、その今にも襲い掛かりそうな雰囲気に脅え、慌てて銃弾を放つ。
だが、ライフルから放たれた銃弾は貫通せず、皮の中へ埋め込まれただけであった。
次の弾を撃とうとした瞬間に目の前まで突進し、振り上げた右前足によって切り裂かれる。


肉を深く抉られた痛みに耐えられず上げた悲鳴が待機していた兵士達の耳にも聞こえ、思わず身構えさせられる。
少しの間で出てきたキメラに恐怖し、腰に携えた小型の機関銃で応戦するがまったく怯む様子がない。
その頑丈な体に躊躇していると、後ろからも殺気という名の気配を感じる。
振り返ってみると、餌に飢えたキメラ達が唾液を垂らし、低い体勢でこちらへ近づいてくる。

余りの絶望感に上げた兵士達の悲鳴が空へと響き、空気へ消えた。





500m先では未だキメラに会っていないユーリとシエラが同じく街の中を走っている。
他で起こっている事など知らないユーリは呑気にも溜息をついた。
「いざ探すとなるとこんなにも見付からねえのかよー。 外にいたときには気持ち悪いほど同じ顔がいたってのによー」
「んー‥‥‥。 もしかしたらこっちに曲がればいるかもしれないよ?」
シエラが大きな十字路の左の道を指差す。
口を開くよりも先にシエラはその指した方向へ曲がる。
「まっさかー。 適当に行ったぐらいでそんな都合よく遭遇するはずが‥‥‥」
左の大通りへ曲がり、進む。
すると、さっきまで言っていた言葉の続きを言うのに戸惑わざるを得ない。
黒い影のような物が幾重にも重なり合い、近づくたびにその正体が明らかになる。






—————————居たやんけえええええええええ!!!!




ユーリはシエラの言った事が本当であることにショックを隠しきれない。
だが、ショックを受けている間もない。


腰に付けた革製の帯から刀の鞘を取り出し、右手で裏手に持つ。
キメラ達がいた場所は十字路だ。
刀の鞘を構え、キメラの大群の中へ突進していく。
シエラはカバンからある一冊の本を取り出した。

ここに来る前ユーリにもらった物で、普通の紙では覇気が通らないらしい。
専用の紙で出来たこの本ならいつでも召喚術が使えるといわれ、もらった物だ。

茶色で複雑な模様がついた分厚いそれの一ページ目を開くと、狐の紋章が描かれた魔方陣が見える。
「コンちゃん!!!」
アネちゃん。 そう呼ばれた瞬間に本の中の魔方陣が光を発する。
その直後に以前ヴォルドスが襲ってきたときに出てきてくれた緑色の狐が姿を現す。
「コンク」 狐の名前にはふさわしいのだろうが、それでも聞く側からは緊張感を薄くする名前だ。


コンクは左の前足から竜巻を噴射し、前方のキメラを風圧で切り裂き、吹き飛ばす。
その威力を横から見ながら、口笛を軽く吹くユーリは蹴り技や殴り等でキメラたちを翻弄していく。

俊敏過ぎるその動きに躊躇し、倒れていくキメラ。
木々が簡単に折れそうな勢いの風圧に、飛ばされていくキメラ。
この二つの脅威がキメラ達を本気にさせ、気づけば遠くで待機していたシエラもろとも囲まれていた。
自分を囲み、自分を集中的に狙ってくるのではという恐怖が襲い掛かり、思わず中心に居たユーリへ詰め寄る。
「ユ‥‥‥ユーリ…!」
「ああ、大丈夫。 囲まれようが何されようが護ってやるぜ。 しっかりコンクに指示だしな」


瞬間にユーリが剣を抜きながら全速力で前方のキメラに斬りかかる。
胴体を左肩から斬りおとし、それに怯んだキメラに蹴りを与える。
次に飛び上がり、倒れるキメラの後ろに居たそれの肩へつかまり、よじ登った。
頭を裂き、後ろへ跳躍して地面へ着地する。 その場所で後ろに待ち構えていたもう一体が鋭い爪を持つ腕を振り下ろした。
それをしゃがんだ状態で跳躍しながら避け、着地した瞬間に突進し、斬りかかる。

ユーリが刀を抜いてからここまでで僅か9秒弱。
これほどまでに早い者はそう居ないだろう。
シエラはコンクに指示を出しながらそれを見て少しユーリを畏敬する。
コンクも負けじと4方向に竜巻を発射し、敵を見事に吹き飛ばした。


———————かくして、このキメラの大群は、二人の少年少女、一匹の狐によって全滅した。
「よしっ!! やったな! これもシエラのお陰だよ。 無理はしなかった?」
刀を肩に担ぐようにし、笑顔でシエラに問うユーリに、彼女は同じく笑顔で答える。
その姿を見て満面の笑みから微笑の表情へ変わる。

だが、その天使のような笑顔が一瞬にして崩壊する。

顔を強張らせ、自分の名前を呼ぶシエラと、後ろから感じる気配に状況が理解できた。
ユーリは剣を構えると同時に振り向き、後ろから切りかかろうとするキメラに返り討ちをしようとした。

が、それは横からやってきた人影によって意味をなくす。
影の正体である一人の男が左手にユーリと同じ片刃の剣を構えて斬る。
傷口から激しく血を噴出させ、その巨体を沈ませたキメラを他所に、その男の行く先を目で追う。
その男はユーリと同じか少し上か位の年で、黒い髪を風になびかせている。
切っ先まで辿ると、面積が広がる刃を持つ妙な剣を左手で肩に担ぎ、こちらを見つめていた。





       殲    滅    戦



                      終