ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Gray Wolf 更新再開 ( No.35 )
- 日時: 2010/12/01 16:40
- 名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
- 参照: Σ( `@А@´)<たかだか参照100突破で喜んでいる俺がいるよ・・・
エ
第 2 0 話 ン
パ
ラ
小さな声が聞こえる。
否、声が小さく聞こえるのだ。 大勢の人の声だった。
次第に近づくようにボリュームは上がり、それにつられて段々目も開いてきた。
目覚めたそこは既に避難から戻ってきた人たちが大勢いる街の公園のベンチの一つ。
動かすと痛みを感じるその腕には包帯が巻かれている。
——————— 一体誰が—————
「よう。 やっと起きたんだな」
声がした方を振り向くと、そこにはユーリ一人が歩いてくるのが見える。
よく見ると右手に食べかけの茶色いソフトクリームを持っているのが分かった。
「‥‥‥助けてくれたん?」
ユーリはソフトクリームをそのまま舐めず、豪快にかぶりついた。
「まあな。 お前の所為で体力が無駄に消耗されたわ、仕事には遅れるわ、んでもってレインにひどく怒られるわで、疲れた上に更に疲れたんだよ」
レインが恐怖の塊とも言うべき形相で怒鳴っていた光景がフラッシュバックされる。
それを思い出すだけで気分が冷めてきた。
レンは今度は真面目に頭を下げて謝った。
ユーリはまた一口加えてモグモグと口を揺らす。
「で、訊きたいんだけどよ。 結局俺と戦って何か意味あったのか?」
レンはあー、と言いながら黒い髪を掻く。
だが腕の痛みがそれを許さず、レンの動きを制御した。
「本当は強制的に連れてくるなんてそんな非道徳的な目的じゃないんだ。 ただ単に、お前の力をしっかり直に感じて確認したかっただけなんだよ‥‥‥」
「なら、俺の力はお前の望む物に等しかったのか?」
レンはその言葉を聞くとスイッチが入ったように急に振る舞いを切り替える。
「俺の手には負えなかった。 お前の実力は予想以上だよ。 合格〜!」
握った拳から親指を立て、ユーリに突き出す。
だが、また牽制の激痛がレンの口から小さな悲鳴を漏らさせる。
涙目になりながらズボンのポケットから紙切れを出し、ユーリに向けた。
それが名刺だと知ると、それを受け取り、書かれた内容を見た。
レン・ウォンと書かれた文字の下に、ヴェルゲンズ語で書かれた所属傭兵団の名前がある。
「お前も名前ぐらい聞いたことあるだろ?」
レンが隣で自慢げな口調で言う。
エンパラ
聞いたことがある。
確か傭兵派遣組織同士で組んだ連盟の頂点に立つ傭兵団で、その力は一個師団にも劣らないという。
「な? こんなでかい所で活躍できるならやり甲斐もあるだろ? 来てくれるだけでもいいんだ。 お願いだよ〜」
「‥‥‥ま、いいけどよ」
その言葉を聞いた瞬間、レンが急にはしゃぐ様に飛び跳ねた。
しかし三回目の激痛による牽制が襲い掛かる。
最早狙っているのか素であるのかわからない。
とにかくエンパラと呼ばれる偉大なる傭兵派遣組織へ行くこととなった。
それについてはは問題ない。
問題なのはシエラについてだ。 現在彼女には宿で休ませてある。
それだというのにレンはさあ来い、すぐ来い、今から来いと懇願してくるのだ。
一応軍の作戦は一旦終了とし、晴れて自由の身になったのだからこのままここに居ようが何処かへ行こうが構わない。
だがシエラをこのまま放って置くわけにもいかないのだ。
着いて来させる、というのも手だ。 だがそこに連れて行って巻き込ませるのも酷な話である。
———————本人の判断に任せるか
最終的にその答えへたどり着いた。
自分の勝手でホイホイ連れまわすことはできない。 シエラの体はシエラのものなのだから。
だから、彼女がどうしたいか自分で言う必要がある。
「確かにいいけどよ、シエラのこともあるから一旦俺はホテルに戻るわ」
「え? お、おう。 分かった」
軽く泣き顔を見せるレンはユーリの提案に賛成しておく。
レンがずっとユーリたちを見ていたのならシエラの召喚術も知っている筈。
その傭兵団に行くことでシエラの力も利用されるかもしれない。
そうすると、まだ精神面で幼い少女が戦場へ送り込まれる。
そんな酷い話を賛成する物など、まず一般人ならいないだろう。
しかし、もし行く事になったらその時は——————
————————ま、姫様を守るのが騎士の役目って言うしな
ユーリはソフトクリームの最後のコーンを平らげると、一人シエラの元へと歩いた。
エ
ン
パ
ラ
終