ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Gray Wolf ( No.7 )
日時: 2010/11/05 17:37
名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)

       第

         3          騒  動

           話





ユーリは頭をかきながら辺りを見回す。
心当たりのある場所は全てさがした。
無いとすれば、それは人によるものだと頭の中で推理し始める。

とは言っても、家に上がる程の知り合いなどかなり限られる。
ユーリは取り合えずシエラについて記憶の中を探った。

こないだ飯を作りに来てくれて、昨日何か遊びに来て—————


溜息をついた。
多分その時だ。
あの時自分の本棚から何か取り出していたし、それを間違って持っていくのもおかしくない。

ユーリはいつものロングコートを羽織り、ベットの傍に立てかけてあった刀を手に取る。
それを腰のベルトについていた紐に装着し、ドアの方角へと歩いた。




つい先程、ローラーコースターで恐ろしい目にあっていたシエラは、気力の無い顔で歩く。
レールの上で走る車に振り回され、重心が安定せず、若干ふらふらした様子だった。
「おーつかれーっ!! どう? 楽しかった?」
「‥‥‥恐かった」
向かった方向にあったベンチで、白いソフトクリームを舐めているリンと話す。

脳で判断するのも追いつけない、あの容赦ない、隙の無い恐ろしさを作った人は異端だろう。
だが、矛盾にもそれで若干楽しんでいる自分も居る。

この後は特に何もない。 恐らくまあまた何処かのアトラクションで楽しむだろう。
それからは他愛も無い話をしながら、一緒に遊ぶ————筈だった——————




ユーリはシエラの家の前まで来て、インターホンを鳴らした。
聞き慣れた電子音の後に女の子の声が聞こえ、数秒後にはドアが開いた。
シエラに良く似ているが、肩までしか伸びていない髪や、シエラよりか幼い雰囲気を漂わせているなど、違いはあった。
「やっほ、アリスちゃん」
「あ、ユーリさん。 どうしたんですか?」
見る者を和ませるシエラに似た笑顔と、彼女より少し高い声。
自分の近くまで来て、少しだけ照れるが、終に本題を述べ始めた。


——————————


事情を聞き、納得したアリスは軽く頷いてから口を開く。
「それなら、お姉ちゃんは今留守なんで、部屋に行って来るのでどういうのか教えてください」
「えーっと…。 こんぐらいのサイズで、赤いやつで、『召喚術』って書いてある物」
ユーリは手でA4サイズぐらいの長方形を描き、アリスに教える。
分かりました、と一言言うと、振り返ってドアの方へ行き、強い音と共にドアが閉まる。





大きな爆発音と、それに反応する人々の悲鳴が、シエラ達を驚かす。
入り口方面に黙々と煙が上がっており、上空へ上がってやがて消え去る。
サイレンの音が耳を劈き、避難アナウンスが遊園地中で響いた。
『ロートスパークで不審人物が大勢発見されました! 園内の人々は管理人の指示に従って避難してください! 繰り返します————————』


アナウンスの途中から管理人と思わしき人物が多数こちらへやってくる。
だが、彼らは悲鳴と共に血を吹きながら横に倒れていった。
スーツを着た男達が遠くからライフルであろうその長銃を構えて次々と撃っている。

それに恐れをなしたシエラたちは、叫び声を上げながら別々の方角へと逃げていく。
背後からは多数の銃声、怒鳴り声、悲鳴が順番もタイミングもバラバラに響き続けていた。





「すいません‥‥‥」
「やっぱか‥‥‥」
ユーリは頭をかいて溜息をついた。
今日何度この仕草をしただろう。

ユーリはアリスにお礼を言うとウエストポーチから携帯を取り出す。
今すぐ電話してシエラが何処へいるか訊くか——————

その瞬間だった。
突然持っていた携帯が鳴り出す。
画面を開いていたから丁度良いが、それどころではない。

「あー、はいもしもし? なんでござんしょう」
ユーリは少しイラついた声で電話の奥にいる人物に話しかける。 恐らくその態度は電話越しでも分かるだろう。
だがその奥の人物は気づいていながら、変わらない口調、早さ、大きさで言う。
『あ、ユーリ。 大至急向かって欲しい所がある』
「なんだよ。 早く言ってくれ」
段々イラつきを増してきたユーリは思わず強い口調で言った。
若干聞こえるノイズ混じりで、若い声の主は説明しだす。
『実は我が軍の中将、君も見たことがあるライド中将がロートスパークにプライベートで行っている』
「あーそれで?」
『彼狙いのテロリストがロートスパークに襲撃したという報告が入った。 直ぐに向かってくれないか』
「‥‥‥了解了解。 報酬は覚悟しとけ」
ユーリは最後に舌打ちをして、電話を切る。

訂正。
こっちの方が余程大事だ。

あーあ、と嘆きながら
ユーリは凄まじいスピードでレンガの地面を駆けた。




           騒       動

               終