ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Gray Wolf ( No.8 )
- 日時: 2010/11/05 17:48
- 名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
第
4 召 喚 術
話
ロートスパークは最近改装工事を始めた所為で、あちこちに鉄骨や材木などが置かれている。
遊園地の雰囲気を壊す物にはなるが、この時だけは身を隠すにはもってこいの場所であった。
だが、いつまでも安心というわけにもいかない。 いつまたさっきの男たちが来るか分からないのだから。
とはいえ出て行ったら見つかる危険性は更に高まる。
ユーリに迷惑を掛けるわけには行かない今、頼れるのは警察しかいない。
シエラは携帯をバッグから取り出すと画面を開く。
しかしそこに移ったのは黒光りする液晶に写った左右反転の自分の顔であった。
どのボタンを押しても何も音が出てこない。
バッグにしまい、ファスナー閉める音とともに諦めの感情が生まれてくる。
だが、一つシエラの頭に引っ掛かった物があった。
もう一度バッグの口を全開にし、探り始める。
そして取り出したのは一冊の赤い本であった。
—————————ねえユーリ。 召喚術って‥‥‥何?」
シエラはソファーに座りながらベッドで寝ているユーリに話しかける。
少し眠たいのか、目が半開きの状態でこっちを見る。
「‥‥‥あぁ。 召喚術っていうのはね…————————
シエラは傍にあった手頃なサイズの、横から見たらほぼひし形であろう石を手に取った。
石を右手に、本を左手にそれぞれ持つと、円を描き始める。
本に書かれている内容は説明が少し難しかったが、シエラには何とか理解できる。
姿、能力、エネルギー、それぞれはこういう風に描くと、本に書かれいた。
その説明通りに様々な絵や記号、文字をスラスラ書いていく。
まず自らが望む姿を中心に描く。
次に、その周りに円になるようその姿の主の能力を書き込んでいく。
そして、それを行使するのに必要な覇気エネルギーの計算公式をバランスの取れるよう書き込む。
これが出来なければ発動することなど無駄だ。
無理に発動しようとすれば、覇気を無駄に消費して、己の体力が無くなるばかり。
そうして出来たサークルには、中心部にキツネの姿が描かれた物となった。
手をかけようとしたが、少し止まる。
これで助かる保障はない上、そもそも発動するのかどうかも分からない。
たかが魔術を発動できるか否か、という問題なのに、失敗したら今までの足掻きは全て無駄。
それに恐れをなしていた。
そのシエラに容赦なく次の問題が発生した。
突然低い声が近くから聞こえたのだ。
用心しながら鉄骨の影から覗き込むと、例のスーツ姿の男が5人、あたりで色んなところを走り回っている。
「くそっ! おい、人質共は何処に行きやがった!!」
「一応出口は見張らせてある。 今大体200人は集まったが‥‥‥それでも足りんな」
「ちっ! もしかしたらここに誰か居るかも知れねえ。 もうちょい探そうぜ」
まずい、来ちゃう———————
モヒカン頭の男がこちらの方角へ歩いてきた。
まだ気付かれてはいないが、恐らく見つかるだろう。
コツ
コツ
コツ
コツ
段々と靴底の固い音が大きくなってきた。
否、近くから聞こえてきたのだ。
逃げようとしたがもう遅い。
数段に積み上げられた鉄骨の角から人影が現れた。
その正体は言うまでもないだろう。
シエラはとっさに相手が気付くより先にアスファルトに書かれた円に手を置く。
「っ!!! オイ!! ここにガキが一人———————」
視力をおかしくさせるような眩い蒼い光。
その直後に、こちらに気付いた男の声がかき消されるほどの風音が突き抜けた。
———————召喚術っていうのはね‥‥‥正式名称『幻獣召喚使役術』。 名の通り自分が構想した架空の動物を呼び出して、使役させる術さ」
その風は、砂埃を舞わせ、シエラの目に刺激を与える。
思わず涙目になって視界がかすみ、やっと見えたと思えば、男は上空へと舞い上げられている。
そして代わりに自分の目の前に映ったのは、宙で掛けた腰を浮かせ、尻尾を左右に振り回している、赤い瞳の緑色の狐であった。
召
喚
術
終