ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Gray Wolf 第1章本編は完結いたしました。 ( No.85 )
- 日時: 2011/03/29 13:45
- 名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
- 参照: 第2章 始動
「しっかりしろ!!!! 俺に掴まれ!!!!!」
暴風雨の中を走る貨物列車から叫び声が聞こえる。
貨車同士をつなぐ連結器具の上で、一人は躊躇していた。
長く黒い髪をポニーテールのようにして束ねているが、顔立ちはどう見ても男性。
だが、まだ幼い方であることから、年端も行かない、18歳位の年齢だろう。
その手につかまっているのは一人の少女。
貨車の両脇には扉が付いており、その扉の中に可憐な少女はいた。
連結器具という不安定な足場で少年は彼女の腕をしっかり掴む。
だが、その器具が突如外れ、彼女が足場にしていた車両と彼の車両が離れていく。
それと共に、二人の手も離れていった。
「ルリ!!!!!!」
「ユナ!!!!!!」
第 3 1 話
花
の 散 る ら む
土曜の午前11時。
この日はユーリはカフェテリアに居た。
また、シエラやレン、レフィも。
レンはエンパラのボス、ダンカの命を受けてユーリを協力させるためのパイプとしてこの街に滞在している。
とはいっても未だに大きな仕事は来ず、こうして暇をもてあましていた。
「ユーリさん♪ このパフェなんてどうですか?」
「お、結構美味そうだな‥‥‥けどちょっと高いんだよなあ…」
レフィはユーリの左腕を抱き、必要以上にユーリと密接しながら共にメニューを開いている。
その光景を周りは仲の良いカップルだと思うだろう。
だがシエラは不服そうにジッと見つめ、グラスに入ったオレンジジュースをストローを通して飲んでいる。
結局、ユーリはレフィお勧めのパフェを一つ頼んだ。
グラス一杯にチョコクリームが乗っかっており、クッキーや更にミルクチョコなど、様々な物が盛り付けてある。
一緒に配られた銀のスプーンを右手に、チョコクリームをすくう。
それを口の中へ放り込み、溶けていく感触を感じながら味わった。
「ユーリさん」
そう呼ばれ、振り返るとレフィが口を開き、何かを待っている。
それが何か分かった瞬間、ユーリは動揺したが、鼻の下を若干伸ばしながらすくったクリームを彼女の口へと運ぼうとする。
しかも「あーん」と言いながら。
それならまだ動揺するだけで良い。
問題なのは、
ユーリの口が既に付いたスプーン。
関節キス。
「ユ、ユーリ!!!!!」
机をバンッと叩きながらシエラはユーリの名を叫んだ。
いきなりの事に一瞬驚いたユーリを見て、シエラは焦る。
彼の後ろにいるレフィが不満そうな顔を浮かべる。
必死に言い繕おうとするが、何も思いつかない。
不思議がる彼の顔を見るたび、頬に熱を感じてくる。
焦れば焦るほど何も考え付かない。
だがしばらくすると、ユーリの表情が曇り、カフェの外、道路の方を向いた。
一瞬何かと思ったが、それは同じ方向を向いた事で分かった。
「あああああああああああ!!!!!!!! 助けてくれええええええええ!!!!!!」
黒いスーツの、サングラスをかけた男が二人。
何かに脅えながら逃げており、それは助けを求める程であった。
そして、その彼らに、一つの剣が飛んでくる。
真っ直ぐ切っ先を光らせながら直進して飛ぶそれは、一般の剣とも大剣とも違う、中間的な大きさであった。
また、刃はジグザグになっており、鋸の様な形。
それが逃げる男達に向かい、煙を巻き上げて地面に激突した。
たったそれだけの勢いで、体は軽く吹き飛ばされてしまうほどの強烈な一撃。
刺さる剣。 否その向こう側にいる人物に、腰を抜かした男達は脅えている。
その人物は長い黒髪をポニーテールに束ねた男。
黒いTシャツの上に黒いジャケット、青のジーンズ。
その男が右の手を前に出すと、刺さった鋸は独りでに地面から離れ、宙を静止し、その手まで勝手に戻っていく。
受け取り、それを一振り振り回すと、空気が乱れて巻き上げられる。
「自分達が悪者のくせに、助けを求めるとは‥‥‥馬鹿だな」
男はそう言い捨て、スーツの者達を見下すように見ながら近づく。
恐怖という重圧に耐え切れず、片方の男が背中を向けて地面を這って行った。
見逃さず、黒髪の男は剣を思いっきり投げた。
回転しながら飛んでいくそれは逃げようとする男の目の前で突き刺さる。
それに怖気づき、またもや腰を抜かす。
「逃がさない‥‥‥。 話してもらうまでは逃がさないぞ…」
スーツの者達の目の前で立つ男は仁王立ちで見下す。
その姿が余りにも恐ろしく、何も言えない。
震えた声を漏らすだけで何も言うことが出来ない。
また突き刺さった剣が力も加えていないのに勝手に抜け、黒髪の男の手まで来る。
取り、振り被り、溜息と共に言い放った。
「残念だ‥‥‥」
そして振り下ろした大きな刃。
だが、その軌跡をずらさんと、右方から黒い塊が出る。
否、それは足だった。
タイミング良く刃の横っ腹へ直撃し、左へ軌道がずれ、激突したレンガ製の地面は粉々に砕けた。
それをしたのはユーリだった。
蹴り出し、地面についたその足を軸に体ごと回し、右足で蹴り回す。
その一撃を男は後ろに飛んでかわし、ユーリを真正面から見る。
ユーリもまた、彼を視界の中央に置いた。
花 の 散 る ら む
終