ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 黒の刺青 ( No.1 )
- 日時: 2010/12/02 19:48
- 名前: クロウ ◆vBcX/EH4b2 (ID: Ks1Py4Y0)
俺の背中には、黒い刺青がある。
黒い刺青。その刺青は、なんとも不思議なものだった。
黒い炎のようなその刺青は、ある転校生と会った日から、できていた。
その転校生は、ある春の日に、この学校に来た。
高校3年目という大事な時に、このクラスに転校生がやってくる。
先生がそう言うと、黒髪の少年が教室に入ってきた。
「西川 凛です。よろしくお願いします」
よく通るその少年の声は、とても落ちついていた。
黒く、ぺたんとした短い髪に、鋭い切れ目。そして、優しい笑顔を浮かべている凛を見て、クラスメートは大きな声で騒ぎはじめる。
ああ、五月蠅い。
クラスメートは、凛に色々な質問を投げかける。
凛はその質問には、ほとんど答えず、笑顔でうなずくだけだった。
変な奴。
それが、俺の凛に対する印象だった。
凛は軽く頭を下げて、やわらかな微笑みを浮かべた。
その笑みが、とても嫌なものに感じたのは、俺だけだろうか?
先生が、凛が座る席を指差す。
先生が指差しているのは、俺の席のちょうどとなり。
……変な奴が隣に来た。
俺はそう思い、深いため息をついた。
凛はそんな俺のことなど気にせずに、こちらへ歩いてきた。
「あの、これからよろしく」
凛が頬をほんのりと赤く染めながら、そう言ってきた。
先ほど、自己紹介をした時には、赤くなんてならなかったくせに。
ますます、変な奴。
そう思いながら、俺は無理に笑顔を作った。
「俺は、生徒会委員長の橋場 要。要って呼んでくれ」
「うん。僕のことは、凛って呼んで」
凛はそう言って、俺の方に右手を出し、握手を求めた。
俺はその手を握り返し、ぎこちなく笑った。
その時、手にわずかな痛みを感じた。
細い針で手を刺したような、ちくちくとした痛み。
その痛みで、一瞬、笑顔が崩れそうになる。
ちょうどその時、凛が手を離した。
俺は自分の右手を、じっと見てみた。
でも、手には何もない。
では、先ほど感じた痛みは、一体何だったのだろう。
「じゃあ、これから仲良くやろうね。要君」
凛はそう言って、自分の席に着き、鞄を置いた。
その時の凛は、優しげだが、どこか不思議な雰囲気をまとっていた。
見えるようで見えない、謎のベールに包まれた凛の姿は、とても冷たいような気がした。