ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 木漏れ日の姫。 ( No.6 )
- 日時: 2010/11/08 18:42
- 名前: 栞。 ◆KsWCjhC.fU (ID: MCbMbFoh)
第一話「森」
目覚める時は必ず鳥のさえずり。
木の隙間からは木漏れ日が差し込んでいる。
ユエは木漏れ日に目を細め、リョウのもとへ走った。
リョウはこの森の神。
この森に住む全ての生き物を統べる存在。
普段は人間の様な姿で、翡翠の髪と瞳。
その姿は神にふさわしい。
リョウという名を知っているのは、ユエとユエの血の繋がっていない兄、アルだけだ。
「母様、おはよう。今日は何をすればいいですか?」
ユエは湖のほとりに立っているリョウに問う。
<鹿の親子の様子を見てきておくれ。私もすぐに行こう>
ユエはリョウに頷いてみせると、鹿の親子がいるはずの方向へ向かった。
「鹿、何かあったのか?」
ユエは困惑している様に息を荒げている鹿に声をかける。
すると、鹿は鹿の子に目を落とした。
鹿の子は苦しそうに身を歪め、息は荒かった。
<蜂に刺された様だな>
ユエの隣には、いつの間にかリョウがいた。
リョウは鹿の子の身体を抱き上げ、傷口を探した。
<左前足に蜂に刺された後があるな…、恐らく後2日程で元気に走りまわれる様になるだろう>
リョウが鹿にそういうと、鹿は至極安心した様だった。
<ユエ、行くよ>
リョウがユエに声をかける。
「どこに?」
<山犬の群れさ>
ユエはリョウから「山犬」の名前が出た瞬間、自身の身体が強張るのを感じた。
山犬は普段、大人しい生き物だが、出産の時期等、気が立っている時に群れに足を踏み入れると、狂った様に嘶き、襲いかかってくるのだ。
ユエは昔、山犬に襲われ、骨折したことがあった。
それ以来ユエは山犬が怖いのだ。
<ユエ、何も心配することはない。私がついている限り、襲いかかってくることはありえない>
怯えるユエを気遣う様にリョウが優しく声をかけた。
ユエはリョウの顔を見上げて、その後ろについていった。
<山犬よ、怪我をしている者がおるだろう。前に来い>
リョウが威厳のある声で言う。
山犬はユエを襲った時とは正反対に大人しかった。
一匹の山犬がふらふらとリョウの前に出てきた。
<腹に傷があるな。浅いが、あなどってはならん。薬草を食べれば4日で治るだろう>
リョウは山犬達にそう告げると、どこかへ去っていってしまった。
ユエは、リョウの背中を眺め、自分の寝床に向かった。
つい先日まで、山栗鼠の看病で徹夜続きだったのだ。