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Re: 木漏れ日の姫。 ( No.7 )
日時: 2010/11/11 18:20
名前: 栞。 ◆KsWCjhC.fU (ID: PRmCvUEV)

第二話「人」

 ユエは馬の蹄の音で目を覚ました。
 そしてユエは、その音がする方へ駆けた。
 そこには馬に跨った男がいた。
 年は16,7で、ユエと同年代くらいだ。
「お前は誰だ…!何故こんな所にいる…!」
 男は困惑しか表情でユエを見ていた。

 <『人』よ、早くこの森から立ち去れ>

 男の後ろから声が聞こえた。
「お前は…犬神か…!」
<『人』よ、聞こえぬのか。私は去れと言っておるのだ>
 リョウが男に苛立ちの色を見せる。
「俺はレオという。ここに危害をくわえようとしているわけではない」
 男はなおもリョウに抵抗する。
<私はお前達『人』の様な汚れた者がこの森に足を踏み入れるのが嫌なだけだ>
 リョウは冷静に男を見据えたまま言った。
「ならば何故、その娘はここにいる」
<この娘は私の子だ>
「人ではないかッ!」
 男がリョウに向かって叫ぶ。
<この子は『人』ではない。人の形を成しているだけ。この子はお前達『人』の様な自堕落な生活をしたこともないし、『人』の様に自分勝手なことをしたこともない>
「しかし、いくら『人』の生活をしたことが無いといえど、『人』は『人』。その娘はいつか、『人』の生活に、憧れる時が、“外”に憧れる時がくるのではないか?」
 男はリョウに問う。
<この子を捨てたのはお前達『人』ではないかッ!!>
 リョウが怒りをあらわにした。
<髪の色が、瞳の色が他者と違うというだけで、尊い命を捨てたのは『人』ではないかッ!そのような無情な『人』の元にこの子を返せというのかッ!!>
 リョウは男に向かって叫んだ。
 激しく、強く、怒りを男へぶつけた。
 男は目を伏せ、森から出ていった。

 ユエはしばし呆然としていた。
 あらゆる考えが頭の中を通り過ぎていった。

———私は捨てられた哀れな子だったのだ

———私は人だったのだ

———いくら暮らしが獣であろうとも、森の神に認められようとも、この事実は変わらないのだ

 ユエは自分の頬に涙がつたうのを感じた。
「ユエ」
「兄様……」
 ユエはカイの胸に顔をうずめて泣いた。
 静かな森にユエの泣き声だけが響いた。

「ユエ、俺もお前と同じだ」
 カイはユエを胸に抱いたまま静かに言った。
「俺も瞳の色が他者と違うという理由で捨てられた」
「そんな理由で…?!」
「だがな、ユエ。お前も、もしこの森に人が来たら、追い払うだろう?」
 ユエは無言で頷いた。
「獣も人も己と違う者がいると恐怖を覚える者だ。だから、お前はお前を捨てた者を憎んではいけない」
 カイの目には遠い過去が映っていた。
「兄様…」
「さぁ、ユエ。仕事に行こうか」
「はい」