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Re: 木漏れ日の姫。 ( No.34 )
日時: 2010/11/12 22:33
名前: 栞。 ◆KsWCjhC.fU (ID: hj9a4sJB)

第九話「出発」

 「それでは、お元気で」
「さようなら母様…」
 まだ日が昇りきっていないころ、ユエとカイは森の入り口に立っていた。
 その傍には犬神姿のリョウがいた。
 リョウはどんどん小さくなっていくユエ達の背を見つめていたが、いきなり走り出した。
 そして、人間の姿になってユエ達に後ろから抱きついた。
「母…様…?!」
 困惑した声を出したのはユエだった。
「すまない。少しだけ、少しだけでいいから……」
 そう言ってリョウはユエに抱きついていた。
 ユエは幸せそうに目を細めて、カイは何だか居心地が悪そうに、でも嬉しそうにして、その短い時間を過ごした。

「…ありがとう、それじゃぁ、行ってきなさい」
 リョウがそう言ったと同時にユエ達は走り出した。
 涙をこらえて。
 リョウに、母に、涙を見せまいとして。

 赤く染まっている暁の空に背を向けて、ユエとカイは走り続けた。