ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 木漏れ日の姫。オリキャラ募集にご協力お願いします!! ( No.83 )
日時: 2010/11/23 15:04
名前: 栞。 ◆KsWCjhC.fU (ID: yycNjh.Z)

第十六話「ユエとレオ」

「さ、そろそろ帰りましょう」
 エレナがカイに膨らんだ買い物袋を押し付けながら言った。
「はい」
 ユエは素直に頷いた。
 後ろでカイが「重い…」と呻き声をあげた様に聞こえたのはきっと空耳であろう。



「レオ、仕事頼んでも良いか?」
 セシルは頬杖をついて、レオに頼む。
「…嫌だって言ってもやらせるんでしょうが……」
 レオは諦めた様にため息を漏らした。
「町の外れの海の近くに神獣の研究者がいるんだが…」
「エレナ・レットのことでしょうか」
 セシルは何事もないように話を進め、レオも諦めたのか話に乗る。
「知ってるのか?」
 セシルは驚いた様に声をあげた。
「神獣に関する本をかなり出版されていらっしゃる有名な方です」
 レオは「知っていて当然だ」というように紅茶を啜る。
 セシルは「ふーん」というだけで、たいして気にしていないようだった。
「その研究者のところを訪ねて、神獣に関する本を幾つか譲ってきてもらえないか。いつもはエセルに行ってもらってるんだが…」
「今いませんしね」
「そう。だから行って来い」
 なぜかレオがセシルからの頼みを承諾したことになっているが、二人ともいつものことらしく、そのままレオは身支度をするために席を立った。


「はい。お疲れ様」
 エレナは買い物袋を抱えたカイの肩を軽くたたく。
「ユエも髪を洗っていらっしゃい」
「はい」
 ユエは素直に頷いて風呂場に走った。
「はい、紅茶」
 エレナがカイに紅茶を渡す。
 カイは紅茶を受け取ると、少しその紅茶を見つめてから啜った。
「…貴方は?どうして森に?」
 カイは唐突に聞かれ、少し紅茶をのどにつまらせたがすぐに落ち着いて質問に答えた。
「自分から森に入ったんです。俺は瞳の色が他者と違う。だから迫害された。それが辛くて……。最初は死ぬために森に入ったんです。「あの森に入ると犬神に食われる」という噂があって…」
「そしたらリョウがいたんだ」
 カイは黙って頷く。
「はい。母様は優しく受け入れてくれました」
「そう…」
 エレナは優しく微笑むと紅茶を啜った。

 しばらく二人で喋っていると、風呂場の方からユエが見えた。
「私にも紅茶頂けますか?」
 ユエは髪を乾かしていたのか、大分いつもより風呂からあがるのが遅くなってしまった。
「ええ、勿論」
 そういってエレナが立ち上がった時、扉をたたく乾いた声と、どこか聞き覚えのある男の声が聞こえた。
「エレナ・レット様はご在宅だろうか?」
「ええ、今開けるわ」
 エレナは扉を開けるとそこには森で見たことのあるあの男が立っていた。
「あの時の…!!」
 ユエがその男—レオ—を指さして言ったのと同時に、レオも同じことを言っていた。
「あら、お知り合い?さ、どうぞ」
 エレナは呑気に声を上げながらレオを家の中に引きいれた。
 エレナはレオを椅子に座らせ、紅茶を取るために席を立った。

「貴方…なんでこんなところに?」
 沈黙を破ったのはユエだった。
「俺は王族を守る聖騎士という職についている。ここにきたのは聖騎士の仕事のためだ」
 レオは順序良くユエに説明する。
「私はここでお世話になっているの」
 ユエもレオに簡単に説明した。
 また二人の間に沈黙が流れたが、今度はレオが破る。
「名を聞いていなかったな。俺はレオだ」
「私はユエ」
 二人とも、完全に。とまではいかないが、それなりに打ち解けたようだった。
「はい、紅茶。神獣の本はこれよ」
 エレナはレオに紅茶をだしながら本を渡す。
「ありがとうございます。俺は仕事が終わりましたので。お邪魔しました」
 レオは紅茶に手をつけることなくエレナを出て行ってしまった。
 ユエはレオの背をじっと見つめていた。

 エレナはそのあとレオに出した紅茶を見つめてため息をついて、飲み干したのは誰も知らない。