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ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 艱難辛苦 ( No.8 )
- 日時: 2010/11/12 07:18
- 名前: 桜音ルリ ◆sakura.bdc (ID: RCwQmvLv)
「今帰ったぞ。」
「おかえりなさいませ。」
「相変わらずだなぁ、稲。」
「あまりに変わっては、殿がお帰りになった気分を味わえないかと思いまして。」
「はッ!! よく言うよ。」
軽い言葉を交わしながら、城主である北条氏康の身支度を彼の自室にて手伝う雨。
手際のよい作業に、氏康も違和感を感じずに身を任せる。
着物を調え、ようございますよ、大変お似合いです殿、と告げれば、ニヤリ、と氏康の口角が上がった。
「今日は宴会だ。お前も楽しめよ!」
「ありがたきお言葉。勿体のうございます。」
深く頭を垂れれば、氏康の表情が一瞬曇ったが、稲が顔を上げるころにはまたいつもの表情となっていた。
そして、行くぜ、と声をあげれば、勢いよくふすまを開け廊下へ飛び出していった。
稲は、部屋に残された戦装束を手に、部屋を辞した。
と、廊下の向こうで、氏康どぬぉおおお!! と、青年の声が響いている。
ちったぁ黙ってろよ!! と叫ぶ氏康の声や、幾人もの男たちの声、さらには女の子の怒声などが聞こえてくる。
稲は、静かにため息をついて、洗濯場へと向かったのだった。
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