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03「恋の蕾は花開く」

「夜月君っ!」
「小山先輩……」
その元気な声に顔を上げる。
「勉強頑張ってるね」
また図書室に来てみた。もしかしたら、夜月君に会えるのではないかと言う期待を込めて。
「はい」
「勉強が好きなの?」
夜月君の隣に座って、勉強内容を見る。
「いえ。ただ、親がうるさくて……」
「あぁ、解る! あたしの親も五月蠅いもん!」
「親ってイヤですよね。子供を自分の理想通りに作ろうとする……」
シャーペンを強く握りすぎて、手が震える。
「そうだね……。ごめん、今日は妹のご飯作らなきゃいけないの。またね」
ガタン、と椅子を降りて、図書室を出る後ろ姿が小さくなっていく。

「……」
この気持ちは何だ、もう恋愛なんて……。

「ただいま……」
ソファーに、壊れたように座る妹。その瞳は、どこを見ているか解らない。
「今からご飯つくるね」
「……」
もう何年も妹の声を聴いていない。あたしの妹は、あたしの所為で感情を失った。
「はい、できたよ」
今晩は妹が大好きなオムレツにした。もう、味も感じられないのだろうけど。

「お姉ちゃん、美味しいよ……」
生気の宿っていない瞳で、呟くように言う。
「……っ!!」

何年かぶりに聴いた妹の声に、あたしは泣いてしまった。