ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: おかしな大家族と周りの人たち ( No.1 )
日時: 2010/11/10 19:36
名前: 掌 ◆xRzLN.WsAA (ID: nWEjYf1F)
参照: プロローグうううううううう

とある山奥の小学校、放課後。四年一組の教室にて。今日も、少年たちは「いじめ」を行う。
「バーカ」
「ブース」
その言葉は、全て一人の少女に向けられて発せられており、ターゲットとなっている少女はすすり泣きながらしゃがみこんでいる状態だ。
見たところ、少女は誠実そうな顔をしており、顔も「ブス」という単語とは地球三つ分くらい離れているのだが——
少年たちは少女の何が気に食わないのか、彼女に非難の声をあげている。
「おい、浦野ーっ! お前、最近調子に乗ってないか!? 生意気なんだよー」
そう言って、少年グループの中の一人が、「浦野」と呼ばれた少女の髪の毛を強く引っ張った。
「痛っ」
浦野は泣きながらも必死に抵抗するが、少年たちは全くその行為をやめようとしない。
「へっへー。浦野が生意気なのがいけないんだもーん。俺ら悪くないもーん」
少年たちはそう言うと、少女の髪の毛を勢いのまま引きちぎり、駆け足で教室を後にした。
その後、数十秒程たったであろうか。少女——「浦野あき」が立ち上がろうとすると、彼女は何者かに手を差し伸べられた。
あきは一瞬驚いて体をぴくりと揺らしたが、すぐに相手が誰かに気づき、ほっとした表情で、その暖かい手に自らの手のひらを置いた。
「ありがとう、お母様」     
「母」と呼ばれた人影は、そう呼ぶにはあまりにも小さかった。
なにしろ、その人物は、あきより身長が低かったのだから。
そしてその人物は、まだ小学生の幼い女の子だったのであるから。
                             *
浦野一家とは。
母親の「浦野まき」と、父親の「浦野ゆうき」。そしてその子供の「ななき」、「さき」、「みずき」、「げんき」、「あき」の、計七名で構成される大家族である。
彼ら(もしくは彼女ら)には、それぞれに癖があり、過去には闇があり、体には傷がある。
しかし、「それを乗り越えてこその浦野の一員だ」と、母親である浦野まきは、子供たちの「昔」を一切気にしない。
その代わり——彼女は、自分の目の前で起こった「今」のことには、躊躇なく節制を行う。
そして今回は、彼ら(もしくは彼女ら)の、“全く普通な”出会いの物語。
いや、普通だと思っているのは彼ら(もしくは彼女ら)だけであって、我々からしてみれば、ただの不可思議な事件なのかもしれないが。
                             *
始まりは、国家発案の「実験」だった。
実験内容は至って簡単。「もし、子供と母親が同年代であれば、子供はどのように育つのであろうか」というもの。
その実験体になったのが、日本国内在住の孤児の中で「IQテスト」を行い、見事に一位を勝ち取った「山田まき」と、二位の「佐藤ゆうき」。
そして、偶然にもくじ引きに当選してしまった五人の孤児たちだった。
孤児たちは、学校側も全く詳細を知らされていない「IQテスト」を無理矢理受けさせられ——その中で一番IQの高かった二人が偶然合格してしまったのだった。

そしてその後、七名の合格者たちは一箇所に集められ、国家の「お偉いさん」に、こう言われた。
「君たちは、これから家族だ。まきさんがお母さん、ゆうきくんがお父さんだよ。これから仲良くするんだぞ」
こうして、「浦野一家」は誕生した。何故、名字が「浦野」なのかと言うと、この実験の発案者の名前が「浦野勇吉」だったから。そんな簡単な理由だった。
何もかも簡単な理由。偶然と必然が重なり合い生まれてしまった一つの家族。「浦野一家」は、つまりはそういうものだった。

そして、その中でも、母親と父親には、こんな実験内容が課された。
「子供たちの過去を気にしてくれないかな。不平等に扱ってほしいんだ。まぁ、その……えこひいきしてくれ、って言ったほうが分かりやすいかもだけど」
「浦野勇吉」は、母親と父親にそう伝えた。一体何が目的なのかは、二人にはわからない。
何しろ、二人ともまだ小学校低学年なのだ。空が青い理由も知らない彼らにとって、初めて目にした国の現実はあまりにも黒すぎた。
しかし、母親と父親は、「浦野勇吉」の要望を無視した。

「わたしたちの子供なのだ。どんな子に育てても勝手であろう」

親に見捨てられ、満足な食事も与えられず、弱く弱く育った二人には、たとえ作り物の家族でも暖かい物のように思えた。
だからこそ二人は——孤児たちを立派に育てあげることを誓えたのだ。

そして孤児たちも、それぞれの胸に誓った。何を誓ったのかだなんて知らないが。



この物語は、とある大家族の絆の話。