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Re: 満月の晩に  ( No.3 )
日時: 2010/11/09 20:57
名前: 浅葱 ◆jnintUZIrM (ID: m26sMeyj)

∮  序  章  

紅色の華。花弁が散る毎にその美しさと儚さが際立つかのように思えた。
そして淡く光る仄めかしい月の光はそれを尚惹き立てる。しかしその光景に見惚れる者は居ない。
何故か? それは其処に居るのは私と、


「まっ、待ってくれ……! い、嫌だ!! しっ、死にたくない! まだ死にたくないんだ!!」


必死に命の助けを乞う、愚かな人間のみだからだ。

そして私はその人間を見下すかのように見ていた。
壁に追い詰められ、目に涙を浮かべ、命の助けを、そして許しを乞う姿は何とも滑稽な物だ。
私は内心そう思い、軽く人間を鼻で笑ってやると手をスッと上げる。
するとそれに過敏に反応するかのように人間の肩がビクりと上がり涙が頬へと零れ落ちる。


「じ、自分のやった事は反省している! もう、もうお前を鬼だとは迫害しない! ほっ、本当だ!!」


鬼。その言葉に私の耳はピクりと反応し怒りにも似た眼差しをその人間へと向ける。
しかし人間は余程混乱しているのか、その視線を少々気が傾いたものだと勘違いしたらしい。話を再開する。嫌悪感らしき感情が私の心を埋めた。
……あぁ、腹立たしい。醜いとしっていながらもその感情を抑える事はなかなか出来ない。


「お前を普通の人間として扱う! おっ、鬼の鵺とはもう呼ばん! だから、お願いだ! 許してくれ!」


「……はぁ、そうですか」


怒る気持ちをギリギリ押さえ、感情を押し殺した声で人間の話に適当に答えておいた。
最も、眉間に皺はよっていただろうし、目も怒りを隠せていはいないから怒っている事は確かなのだが。
……鬼の鵺と散々呼び、私を迫害していたくせに今度は許せだと? 怒りが収まらない。もう限界だ。
私は人間に目線を向け、こう言い放つ。


「しかし私は貴方を許す事は出来ません」


ぐちゃり。鋭く伸びた爪を男の脳髄に突き刺すと想像していた惨劇が出来上がっていた。
既に絶命している人と呼べるのかすら分からない惨劇は、その者の愚かさを語っているかの様な気がする。
自然と口角が釣り上がっているのが自分でも分かった。


「愚かな……」


馬鹿馬鹿しい。私はそう思い自分で作った惨劇を足で踏み潰すと溜息を着く。
所詮、長い物に巻かれろ主義の奴らは結果こうなる。私の手で惨劇となっている。
……私を迫害していた奴が、今更許しを乞うだなんて愚問だ。普段ならそれに気付いていただろうに。
そして自分で作った惨劇を踏みながら、外を見てみる。月が相変わらず仄めかしい光を放っていた。


「今宵は月が綺麗ですね……」


この惨状と共に見る月は





とても綺麗なものだった。

∮  序  章  〜終〜