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Re: 満月の晩に  ( No.7 )
日時: 2010/11/09 21:43
名前: 浅葱 ◆jnintUZIrM (ID: m26sMeyj)

第一夜 鬼と鎌鼬

「愚かしいもんだねぇ……」


私—紅咲鵺を見ながら感嘆した風に溜息を着く少女がやって来た。彼女は私の友人—雪鎌黒夜だ。
私がちろりと黒夜を見ると黒夜は慌てる訳でも無く「人間は」と付け加えている。
……先ほどまで人間だったこの男。元々私の住んでいた村の長だった人間の言っていた通り私は“鬼”だ。
何しろ耳には通常では有り得ない鋭い角がある。その上爪もただ伸ばしているだけではない爪。
……簡単に言ってしまえば、化け物なのだろう。とにかく私はあの村で“鬼”として迫害されていた。
その時私と共に迫害され居た少女、鎌鼬の黒夜。それがこの少女、雪鎌黒夜である。

それはさておき、私はもう磨り潰されてきている自分の作った惨状を見つつようやく足を離した。
知らないうちにここまで惨状が酷くなっていたらしい。


「敵討ちと言う所でしょうか……」


「凄い事になってるよ。てか敵討ちはコレだけじゃないでしょ?」


敵討ち。それは私と黒夜が何とかしてあの村を出て行った時から二人での約束である。
それがどう言う約束なのかは敢えて今は多くを語らないでおく。とにかく敵討ち中と言う話だ。
もっとも恨みがあったのはこの男だけではない。拡大して言ってしまえば“人”に恨みがあるくらいなのだから。


「…………行こうか?」


黒夜と私の間のみで決まっている問いかけ。私は迷うわけでもなくすぐに頷いた。
何処へ行くか? それは簡単な事。


「行きましょうか……」


“敵討ち”の為に、もっと人の居る場所……とりあえずは村ではなく大きな人の集まり。
現代で言えば“県”や“市”なる所へと行く予定だ。私の居る日本国—日本は人が多い。
その分、“敵討ち”をする人の数も多いと言う話。さっさと日本国を回って“敵討ち”をしたい。


「……そうだね、さっさと“敵討ち”をして人間共に復讐しないとねぇ?」


やや自嘲気味に黒夜はにやりと笑う。私は沈黙で肯定の意を示すと黒夜は外へと出た。
私も続いて外に出てお互い外へ出た事を確認すると「走り」出す。最も速さは人並みでは無い。
何しろ鬼と鎌鼬とどちらも妖怪だ。逆にコレで人間並みだったらそれこそおかしいものだろう。


月の光が段々と日の光に変わりつつある中を、私と黒夜は奔り続けていた。


心に秘めている事は“敵討ち”だったであろうか。