ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Reduction world ( No.6 )
- 日時: 2010/11/11 17:51
- 名前: 橘 裕葵 ◆uuhSmK027Y (ID: yA6Y/.Us)
第一章
一話『異変』
「ふあぁ…」
快晴の空の下、立ち並ぶビルの間を人々が行き交う。
話声、足音、車のエンジン音など、様々な残響を耳にしながら、俺は空を仰ぐようにして欠伸をした。
——高校生になり最早一年、通学にも慣れ心にも余裕ができ始めているせいか、この頃は欠伸ばかり漏れる。
と、そんな俺の下に、通学友達がペットボトルを持った手を挙げながら、人込みをかき分ける様にして俺の元へとやってきた。
「——おはよう、渚。今日は早いなー」
「今日はたまたま、な」
俺は友人に軽く相槌し、カバンを手に取る。いつもの調子で歩き始めた二人は、他愛も無い会話を交わしつつ、人混みに流されぬよう細心の注意をはらいながら学校へと向かっていた。
「…そういえば、今日やる事ねぇよなー。なぁ渚、放課後暇?暇ならブラブラしようぜ」
「遠慮する、親が煩いから」
「ノリ悪いなー。でも、たまには付き合えよ?」
アハハッと楽しそうに笑う友人を横目に見ながら、俺は長い溜息をついた。
『本当は行きたい所だけど…今日はそんな気分じゃないんだよなぁ』
俺はそんな事を思いながら、また深く溜息をついた。
そして、そんな気持ちを晴らそうと空を見上げた時だった。
————ピシッ、ビキビキビキビキッ…!
何かが、強い力で避ける音————…そんな轟音が街に響き渡った。そして、それと同時に…俺がたった今見上げた空に、大きな黒い亀裂が走った。
「——っ…!!?」
だが、それが見えているのは俺だけなのか、街の皆も、友人も空の異変に気が付いていない。すると、唖然としていた俺に、友人が「どうした?」と、声をかけてきた。
「お、お前…っ!空に亀裂が———————————」
そう、
俺がそう言った瞬間だった。
——友人の顔から表情が消えたのは。
「…え…?」
今まで見た事の無い程の無表情———…それは友人に限らず、街の中の皆…全ての人間の表情が消えていた。
そして、皆は今まで見向きもしなかった、あの空の亀裂を一斉に見上げたのだ。
「お、お前…一体どうし————」
「…“被験体A”の プログラム に “バグ”発生、ただちに バグ の デリート(削除) を 開始します」
今までに聞いた事の無い程、無機質な声。機械音を連想させる声を発したのは…紛れもない友人だった。
俺は目を見開いたまま、友人を見る。だが、奇妙な事が起こった。
「逃げるぞ、渚!ったく…バグの侵入許すなんて、“管理者”は何やってんだろうなぁ……」
そう言って、何も無かったかのように笑顔でそういう友人。彼は俺手を強引に引いた。
「———ちょ、ま…待てよ!管理者って…一体何なんだ!」
俺は、その手を振りほどいた。だが、友人は再び俺の手を強引に引き、ビルの影まで連れ込んだ。そして、俺の目を真っ直ぐ見て、突然訳の分らない事を言い出した。
「…大丈夫、“オリジナル”のお前さえ生きていれば、この世界は壊れない…。俺にだってまた会える。だから、お前は逃げてくれ」
…お前は、一体何を言っている?
「だが、絶対に“バグ”には捕まるな。絶対だぞ、友人との約束は絶対守れよ!俺も、皆も…お前の味方だから。だから、もしバグに会ったら…会ってしまったら……
——————…そのときは、そいつを殺せ」
————!!?
「本当…何言ってるんだ!オリジナルだとか、世界が壊れるだの…何なんだ、一体何が言いたいんだ!“バグ”なんて言われても分るかよ、しかも、殺せだとかそんな———」
「渚!!いいから聞け…な?」
…友人は、自虐的で悲しげな笑顔を向けていた。
「……ッ…!」
その顔を見て、思わず俺は黙った、罵倒する気が自然と消えうせてしまったのだ。
何故、友人がそんな悲しそうな顔をするのか———…それは、一刻を争う事態なのだと、その笑みは俺に語っていた。そして、俺はそれを察してしまったのだ。
「…………俺は、どうすればいい?」
「…分ってくれたか、ありがとう」
友人は、少しだけ表情を和らげた。しかし、その別れ際みたいな自虐的な笑みは崩さなかった。
「お前は、逃げたらいい。皆、お前を助けてくれるから!だから…逃げろ。俺が時間を稼ぐから」
「待てよ…お前はどうなるんだ!」
「大丈夫、お前さえ生きていれば俺は————な?察してくれよ…」
友人は、そう言って空を見上げた。そして、忌々しそうにあの亀裂に見つめた。
…俺は、今自分自身に起きている事自体まだ把握できていない。
だが、今…世界がとんでもない事になろうとしている…友人の口ぶりからして、俺はそう思った。友人が何を知っているのか知らない。だが、今は…友人のい言う事を聞けばいいのだと、そう感じた。
「…それは、俺がお前の言う“オリジナル”だからか…?」
俺は、色々な意味を含め、友人にそう言った。すると、友人はゆっくりと振り返り、コクリと頷いた。
「ごめんな、本当はお前に真実を告げたい所だけど…“どうせ忘れる、今日の記憶は削除されるから”。だから知らなくていい。ただ逃げてれば、いつもみたいに、元通りになるから————」
…聞きたい事はたくさんあるさ。
けど、それを我慢するべきだと思った俺は、あえて何も言わずこの言葉に頷いた。そして、それを見て友人は、朝みたいに無邪気に笑った。
「じゃあ…行くな。また絶対会おうな…」
「当たり前だろ!でも、渚は逃げる事だけ考えろって!」
そして、俺と友人がそう会話を交わし、俺があの空の裂け目に背を向けた時だった。
———トスッ
俺の目の前、それも突然その男は現れた。
空から降り立ち、真黒な長い髪をなびかせる。目の前の凛とした雰囲気を纏う男。背は俺よりも高く、その特徴的な紅い目が何かを見透かすように俺を見つめていた。