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第弐拾壱話「狂愛者」

「……」
幸直から静かな寝息が聞こえる。あれからずっと会話はなかった。
ただ、ずっと私が幸直の髪に指を通していた。
襖を開き、幸直の部屋を出る。

すると、白い手に捕まった。
「っ───!?」
幸直の隣室から伸びた手は、私を捕らえて離さない。
「貴様───」
暗闇に目が慣れると、その背の高さで判別できた。
───明智 光好。

「このような時間まで男性の部屋に……。何をしていたのですか?」
「何もしていない」
締め上げられる右手は、血が通らなくなる。
「信じられませんねぇ?」
きひひっ、と笑いながらしゃがみ、顔を近づけてくる。
「───」
コイツの絡みつくような視線から逃げられない。

「貴方は本当に美しいお方ですね」
「は……?」
締め上げられた右手も解放され、その視線からも解放される。
「政義殿も、幸直殿も……。惚れるはずです」
くくくっ、と笑っている。いつものことで、今のコイツの感情を読み取ることはできない。

「……えぇ。本当に、貴方は美しい。
　───狂おしいほどに」