ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 激動の乱世(仮題) ( No.10 )
- 日時: 2010/11/14 10:08
- 名前: 千尋 ◆X7/d.TmciY (ID: iHur2k3D)
- 参照: 長ぇ!読むのしんどいじゃねぇかよォォォォ何やってんだ自分((
一話 『人が統べる世』
ビュオオオオオォォォォォォォォォォォォ…
血の匂い、折れた刀、そして、焼け崩れた城の跡に風が虚しく吹いてゆく。
俺はその風に髪をさらわれながら、見上げながらも見下すような瞳でその有様を眺めていた。
「ここが本能寺…見る後も無し、か…」
俺は訝しげにそれから目を背けると、己の持っていた刀を地面に突き刺した。
そして、心の中で言葉を唱える。
『信長、ここでアンタは終わったのか…』
まるで自分に言い聞かせるかのように心の中で呟き、再度城の焼け落ちた後を見る。
『…これが、人間に干渉しすぎた鬼の末路。
信長、鬼の頭領であるアンタがいない今の俺達一族は、一体これからどうすればいい?』
だが、その問いに答える人物はもういない。
天正10年6月2日に、その人物は本能寺の変にて、志半ばにして死んでいった。
人間の持つ野心は一切なく、信長はただ———俺達“妖怪”の為に天下を目指していた。
そう、信長が背負ってきた日の下の全ての妖怪の為に。
「おい、五十嵐 匡!」
…、
そんな感傷に浸っていた俺を、不意に呼ぶ声がした。
少しだけ振り返ると、そこには紅にも茶にも似た色をした短髪の青年が立っていた。
「お前、またこんな場所にいたのか。お前も飽きねぇよなー」
自信に満ちた不敵な笑みに、好戦的に光る眼が俺に向けられ、そして青年は再度口を開く。
そんな青年の言葉を聞いて、俺は訝しげに彼を見て一言。
「————孫 悟空か…猿が何しに来た」
憎まれ口と分っていたが、どうしても今はそれを言えずにはいられなかった。
そんな事を察してか、俺が孫悟空と呼んだ青年は呆れ口調で「可愛くねェ奴だな」と、言っていた。
…まぁ青年と言っても、だ。
この孫悟空は妖怪の中でも異例である不老不死を手に入れた猿の妖怪。(年は知らん)
武術の達人で乱世となった日の下に興味を持ち、態々異国からやってきた物好きだ。
信長の死後に出会った男…。
「…ところでよォ五十嵐、お前何でまたこんな殺風景な場所に通いつめてんだ?鬼ってのはそんなに暇なのか」
「黙れ猿、お前には関係ないだろ」
ぴしゃりと、斬り捨てる様に言う。
…俺には、此処に通う詰める以外道がない。
鬼の一族は頭領を失い、まとまりが消え各地に姿を消した。
他の妖怪は、乱世となった日の下で逃げ惑う様に各地を転々とし、ついには姿を消した。
そして、信長を慕ってきた俺は…何もできない非力な者となってしまった。
俺達妖怪を支える大黒柱はもういない。
日の下の妖怪は、最早消えていく運命にあるのかもしれない…
「…事情は知らねぇけど…よほど大事な人が眠ってる訳だな、ここには」
すると、察した孫悟空は少し悲しげな表情を浮かべながらそう俺に言った。
「あぁ…全ての日の下の妖怪が慕う程の鬼だった…。
———俺を家族の様に可愛がってくれた…俺の大好きだった人が最期を迎えた場所だ…」
俺はその問に答えた。悟空は、返事が来ると思っていなかったのか驚いた様に目を見開き、こちらを見ていた。
そして、悟空はその瞬間———俺の頭を豪快にわしゃわしゃと力一杯に撫でた。
「っ!?
…痛い、止めろ!」
俺はそう言って手を払おうとするが、力が強すぎて頭を挙げる事ができなかった。
だが、俺の頭を押さえながら、悟空が突然呟く様に口を開いた。
「———昔…三蔵法師っつー天竺を目指して旅をしていた奴がいた。
人間だったけど、良い奴だった。だから、お前の気持ちも分らなくもねぇ。
…でも、お前の場合…俺と違う」
「…?」
最後の意味深げな言葉の意味は、分らなかった。だが、悟空は淡々と話を続ける。
「今の日の下の妖怪がどうなっているか大体承知してる。
妖怪のトップだった織田信長が死んで、妖怪が姿を消してるらしいな」
コイツ…初めから此処が何処だか知って—————
「次に妖怪を束ねる奴がいないんだったら、お前がやればいいだろ」
————この男は、一体俺の何を知っているのだろう。
全てを見透かしたようなその言葉に、俺は何故か黙り込んでしまうほどの喜びを感じた。
理由は知らない。しかし…その言葉はもしかすると、待ち望んでいた言葉だったのかもしれない。
「猿…いや、悟空。お前は———」
「あぁ、付いて行ってやってもいいぜ?観光地巡りも飽きてきた所だしな」
尋ねるまでも無く、悟空はあったりそう言って見せた。
全く、俺はこの男を見誤っていたのかもしれない。
…悟空は、信長に似ている。
俺は焼け落ちた後の本能寺をぼんやりと眺めた。
“「次に妖怪を束ねる奴がいないんだったら、お前がやればいいだろう」”
悟空のあの言葉は…俺に信長の意思を継げと言いたかったのだろう。
『…あぁ、やってやるよ』
もう、城を眺めているばかりではいられなかった。
決意を交えた笑みを浮かべ、俺は突き刺したままであった刀を引きぬいた。
風が再び吹き荒れ、その風と共に二人はどこかへ去っていった。