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Re: 激動の乱世(仮題) ( No.11 )
日時: 2010/11/17 17:13
名前: 千尋 ◆X7/d.TmciY (ID: iHur2k3D)

2話『戦場に佇む美女』





その女は、まるで化物だった。


戦場に突然現れたかと思うと、まるで殺戮を楽しむかのように戦場を舞った。
突然山陰道(今の中国地方)に現れたそれは、わずか二週間あまりで山陰道・山陽道の兵力を半壊させるほどの猛威をふるった。

そして、それを目撃した者の殆どが、口をそろえてこう言ったらしい。

——“八の頭を持った大蛇が、人を喰らった”

と。



そして、その女はこう言った。
「…妾の体を引き裂いた憎き人間共よ、絶望に打ちひしがれて死んでいくがよい…」





「———山陰道の蛇…。猿、お前はどう思う?」
「猿と呼ばれる事が不快でしゃあねぇな」

京の街のとある団子屋で、二人は南の方向を眺めながら団子を一口。二人は京の街で道草を食っていた。

「…猿でいいだろ。孫悟空なんて言うの面倒くさい。
 奥州に向かうつもりだったが…すぐ近くの山陰道と山陽道が酷い事になっているらしいな。
 だが、話によるとその犯人が同胞(妖怪)かもしれん…行くべきだと思うか?

 ———と聞いたのだが…所詮猿か」

「るせーねぁ、本っ当可愛げねぇなお前!」

『それは結構』
俺は、心中でそう呟きながら、彼にふと目をやった。
悟空は流石に尻尾を隠しているが…やはり街では浮いている様に見える。何せ、髪の色が色だしな。
それに、声がでかい。

「…つーかよ、まずは兵力集めねぇと話になんねぇだろ?」

と、俺がぼんやり眺めていた彼が、不意に口を開いた。
そして俺はというと、「分っている」と、言葉を続ける。

「信長がつくり上げようとした世を築くためには…やはり武力制覇が一番だろうな。

 日の下は…人間は…常に争いで国をつくり上げてきた。
 人間の築いたルールに従うのは不快だが、それが妥当だろう」

そう、これは日の下だけではなく…悟空がいたという国も、そうだった。
元々の大きな国が三つの国に分れ、人々はまた争っていたらしい。

———まぁ、その方が俺もやりやすい。

「へっ、戦か…腕が鳴るねぇ」
この悟空も、元より戦目的でこの国に来た。暴れたくて仕方がないと、口癖のように言っていたからな…
流石の悟空でも、何千何百万といった数の武器を持った人間に敵う筈も無い。
だが…

「猿…その前にやる事があるだろう」
「わーってるよ、兵力集めんだろ?さっさと集めちまおうぜ」

そう、まず兵力。しかし、俺がこだわるのは数ではない。

「あぁ、まずは兵力だが…数ではなく、使える人材を少数集めるつもりだ。
 人間にとって兵力は数があればいいだろうが、俺達妖怪にとって数は足手まとい以外の何物でもない」

“量より質、つまりそう言う事だ”と、俺は言った。
すると、悟空も頷き肯定した。

「そうと決まれば…早速行くぞ、猿」
「猿って……———わーったよ!好きなように呼べばいいだろっ」

悟空はふてくされながら、先にその場から立ち去った。
俺は勘定を済ませ、山陰道へと足を向けた。