ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 激動の乱世(仮題) オリキャラ募集← ( No.16 )
- 日時: 2010/11/17 17:20
- 名前: 千尋 ◆X7/d.TmciY (ID: iHur2k3D)
3話 『狐』
「山陰道…出雲に一匹、京に二匹…」
——とある神社。
沈む夕日を見つめながら、ある少女が無表情にそう言った。その青い瞳に映る夕日は神々しく輝きな
がら、ちょうど山に沈んでいく所だった。
「………」
今まで感じなった強い妖気が、いきなり三つも感じられた。これは…何かの前兆なのだろうか?
齢僅か13歳のその少女は、さして興味も無さそうにそう心の中で呟いた。
と、その時だ。
トスッ
微かな足音…その音が背後から聞こえた。特に焦りも見せずフッと振り返ってみると、そこには佇む一人の忍。
「…猿飛佐助か」
「——よぉ、餡子。奇遇だな」
…奇遇なものか。
餡子と呼ばれたその少女は、心の中で呟いた。
猿飛佐助…“今現在”、武田に使える忍だ。腰にしている鎖鎌で、たくさんの人間を暗殺してきた絶対の暗殺者。
情報を欲する忍は、時折こうして私の前に現れる。
———私の集める情報を求めて。
「何故来た…」
と、言いつつ目的は分かっている。
「——分ってるだろ?俺も馬鹿じゃねぇ…“西に三匹妖怪が現れただろ”」
……
「そいつ等の事について知らねぇかと思って来てみたまで。知らなきゃそれでいいが」
そう言うと、猿飛は私に背を向ける。
「…その中の一匹については知っている…」
だが、私はその背を呼びとめるかのようにそう呟いた。ゆっくりと、その男は振り返る。
「“孫悟空”という異国の妖怪を知っているか…?京の一体はおそらくその妖怪…。
前々から孫悟空の気配だけは感じていた」
すると、へぇ、と猿飛から感嘆の声が上がった。
「あの孫悟空か。厄介な奴が来たもんだな…」
が、その後すぐに部が悪そうに表情を歪ませそう呟いていた。
「…猿飛」
私はそんな猿飛を見つめて、一言だけ助言した。
「おそらく京の妖怪は合流している。今、気配が中国地方に向かっている…おそらく山陽道、いや出雲の妖怪とも合流する気だ」
「……やっぱりな、そんな気はしてたが…何をしでかすのやら」
猿飛は最早呆れ口調でそう言った。そして溜息を一つついた後、今度は彼から口を開いた。
「情報屋のお前に情報を聞くなら…それなりの情報を提供するんだったよな?——だったら朗報…に入るのかは分らなねーけど…」
「…」
猿飛の何とも言えぬ躊躇が混ざった声を聞き、餡子は少し猿飛に対し疑念を抱いた。
第一、この男がこうして悩むのは珍しいというのもあった。
「…言ってみろ」
「あ、あぁ…じゃあ言うぞ。
………どうした事か、各地に散らばった筈の“殺生石”を集めている輩がいると聞いてな…まだ噂の域でしかないが、これだけは伝えておこうと思って、今伝えたまでだ」
「“殺生石”…だと?」
ぴくり、と、彼女は珍しく表情を歪めた。それは驚きにも、疑いにも似た表情だった。
そして、何かを考え込むように腕組みをする。
「…まさか、白面金毛九尾様のあの石を…」
「あぁ…そのまさか、だ。
————妖狐のお前にとっては朗報だろ?」
と、そんな私に、猿飛は愉快そうに笑ってそう言った。
だが、私はそんな猿飛を見据えて一言。
「…曖昧な情報を私にくれるな、私は確実な情報が知りたい。
……だが、今回はまぁいい…」
…二言になってしまったが、私は猿飛にそう言った。
猿飛はホッと胸を撫で下ろし、今度こそどこかへ去っていった。
…殺生石…私達妖狐が神と崇める存在である九尾の狐の一人、“白面金毛九尾の狐”が殺され姿を変えたと言われる石だ。
白面金毛九尾様は始め、孫悟空と同じく異国にいた妖怪であった。故に私は孫悟空を知る。何故孫悟空までもが今、日の下にいるのかは知らないが…。
…それはさておき、殺生石を集める事は私達妖狐の絶対的な使命。私達の先祖にあたる白面金毛九尾様をこの世に蘇らせるのなら…それは私達の志願でもある。
だが、既に他の輩が殺生石を集めているとなると…そう容易に私が石を完成させる事は出来ない。
ここは…どうするべきか。
「…」
仕方あるまい…奴等の所へ私も向かうか。奴等と共に居れば、何時かは石を手に入れられるかもしれぬ。
それに、同胞の側にいるのも…良い情報が集まる可能性がある。
「……私も向かうか、出雲へ…」
餡子は心中でそう呟き、猿飛が去った後をぼんやりと眺めた。
『全く、鎌鼬の気まぐれに感謝せねばな…。
…いや、今は猿飛佐助、だったか』
そうまた心中で呟いた後、餡子もその場から姿を消した。